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そこまで口にした平尾は形南に視線を向ける。
言葉を一度も詰まらせない平尾の、そのミントグリーンの瞳と目が合った形南はドッと心臓が五月蝿くなるのを確かに感じていた。
「だって俺は……あれちゃんが好きだから」
「平尾……様」
平尾からの告白が、何度夢見た状況よりも喜ばしく感じた形南は嬉しさのあまりか、彼の名以外に出せる言葉を失っていた。
そんな思いで胸が熱くなっていた形南は平尾の続けて放たれる言葉にもう一度目を見開く。
「一目惚れしたんだ……あの日、君が…俺と知り合いたいって言ってくれた日」
(え……?)
それは本当に初めて聞く情報であった。
確かに彼の心が読めるはずもないのだから、平尾がいつ形南に惹かれてくれていたのかを知る術はない。だがまさか他でもない彼が、平尾が、平尾正が――形南と同じ一目惚れをしてくれていたとは夢にも思わなかったのだ。
平尾は形南を正面から見据えると再び愛の言葉を口に出す。
「あれちゃんが好きだよ。可愛くて逞しくて、無邪気な君を見ると凄く幸せになる」
そう言って平尾はもう一度形南に視線を合わせてくる。形南が真っ赤な顔で彼を見つめ返していると、平尾は自身の首筋を触りながら「それと」と口にして先程の話に触れてきた。
呼称の件に関しては、彼が嶺歌に君付けで呼ばれる事が嫌だったからなのだと教えてくれた。
嶺歌は校内でも目立つ存在であり、そんな彼女から自分だけが特別扱いをされていると思われるのは平尾の望むところではなかったのだと。
そしてそのような人物から君付けで呼ばれては自分が目立ってしまう為、彼女には君付けをやめてほしいと夏休みに電話で告げていたらしい。
それを聞いて形南はひどく納得をする。平尾が目立つ事が好きではない男性だという事はこの数ヶ月間でよく理解していたからだ。
「和泉さんにとっての俺も、ただの友達だよ。それは絶対に間違い無いから、心配しないでほしい」
嶺歌が平尾を君付けにしていた理由は分かる。彼女は自分に対して気を遣ってくれていたのだろう。形南の好きな人に対して敬意を示そうと、彼女なりに配慮をしてくれていたのだ。
だからこそ、普段なら必ず呼び捨てで呼称するあの嶺歌が、平尾にだけ君付けをしたのだ。
これまでの付き合いで嶺歌の性格に関してもよく分かっていた形南はそれに気が付けていた。そして嶺歌への信頼が更に高まるのを実感しながら、形南は平尾に向けて言葉を返す。
「そうでしたの……試すような無礼な真似を行ってしまい、申し訳ありません。私は貴方様の本心が知りたかったのです」
「いや全然っ!!! 試されたって言われても俺は全然平気だし……気にしてくれたっていうのが…嬉しいよ。あれちゃん……俺の事、調べてたんだね」
(あ……)
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