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彼のその前者の一言に安心したと同時に後者の言葉で形南は怖くなる。
平尾は形南が自身の事を調べていたのだと知ったらどのような感想を抱くのだろう。
けれど形南がそう思った時だった。
「そこまで俺を視界に入れてくれてたんだって思うと……それも凄く、嬉しい」
「………………え」
思わず令嬢らしからぬ声が漏れ出た。素っ頓狂な声を出した形南は、しかし恥じる暇もなく平尾を凝視する。
自身の顔は言わずもがな真っ赤に染まり上がったままであった。だが僅かな理性で、単刀直入に尋ねる。
「ご不快になられておりませんの?」
怖い思いを抱きながらも、避けるこ事のできない質問を平尾に投げ掛ける。
いくら好きな人と言えど、勝手に調べられる事をよく思わない人間は大半であろうと理解しているからだ。
だが平尾は形南の想定外な事に、全然と声を出すと「ねえあれちゃん」とこちらを見ながら続けて言葉を放ってくる。
意表をつかれた形南とは対照的に、こちらに目線を向けてくる平尾は、やわらかな瞳で形南の名を呼び、言葉を投げかけていた。
その彼の視線はとても穏やかで、僅かに頬を染めた平尾の視線は――温かかった。
いつもと違い、真剣な様子の平尾に形南の心臓は思わずドキッという音と共に大きな高鳴りを始める。
「あれちゃんは俺の事、どう思ってる? 俺は君の事……一人の女の子として、好きだよ」
三度目の好きというその言葉に形南は赤面が止まらなくなっていた。
「私も……」
形南は彼と自分の想いが同じものである事は分かっていた。
分かっていたのに、それを平尾本人から直で聞いていた形南の感情は――言葉にし難い程の幸福感に溢れた感情で満たされる。
ああ、彼が好きだと、これまで溜めてきた想いが一気に溢れ出すかのような感覚であった。
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