第四十九話『確かめたい令嬢』

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「平尾様をお慕いしておりますの……(わたくし)も一目惚れですのよ」 「えっ……そう……なのっ!?」  形南(あれな)の答えが予想外だったのか、平尾は驚いた表情を見せると瞬時に顔を俯かせて首筋を掻き始める。その様子が、愛おしくてたまらない。  形南はそっと平尾の手に自身の手を重ねると、平尾に「ありがとうございますの」と声を加えた。  平尾は冷静さを取り戻したのか、気持ちを切り替えた様子でこちらに向き直り始める。そして形南の手を握り返しながら優しく、しかしはっきりと口を開いた。 「ねえあれちゃん、俺は独占欲が強くて、一度手に入れたら絶対離さないけどそれでもいい?」  優しく握られた手とは反対の右手で平尾は形南の頬にそっと触れてくる。  彼の温もりのあたたかさに気持ちが高揚しながらも形南は平尾のミントグリーンの瞳と目を合わせて「はい」と言葉を返した。独占欲が強いのは形南も同じだ。 「平尾様……大好きです。貴方様にならどれだけ独占されましても、嬉しい感情しかありませんの」  そう告げて彼にやわらかな笑みを向ける。平尾はその回答が嬉しかったのか、表情が緩んだ顔を見せると俺もと言葉を返してくれていた。  しかし一拍の間を置くと、彼は唐突にこのような事を口にしてくる。 「でもやっぱりおかしいよ」  彼の言葉の意味が分からず、形南は赤らめた顔のままどうなさったの? と問いかける。  すると平尾は少しだけチラリとこちらに視線を向けながらこんな言葉を口に出してきた。 「俺はあれちゃんなのに君は様付けだ。下の名前で……呼んでくれないかな? 俺の名前を呼ぶのは……君だけだから」  普段の彼からは予想出来ないような要望を口にした平尾は、気恥ずかしいのか再び顔を俯かせてしまう。  けれど彼のそんな様子にも更に胸が激しく高鳴る形南は、予想外の嬉しい提案に頷き「はいですの……」と小声で肯定の意を表した。  そうして小さく息を吸い込むと、彼の望むその名称を口に出す。 「せ、(せい)様……」 「うん、あれちゃん」  形南が照れながらも彼の名を呼ぶと、平尾は再び嬉しそうに笑みをこぼし、今度はこちらの手を両手で優しく包み込んでくれていた。  温かな体温が手から伝わっていた形南は、世界で一番に愛おしいその男性を真正面から見つめ、両思いになれた幸せを強く実感するのであった。 * * * 第四十九話『確かめたい令嬢』終                  next→第五十話
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