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そんな事を考えていた手前、流石に嶺歌は驚いた。放課後になった校門の先に兜悟朗の姿がある事に――。
「嶺歌さん」
彼は嶺歌の姿を目にとらえると柔らかな笑みを向けて綺麗な一礼をする。
「お疲れ様で御座います。本日のご予定は空いていらっしゃいますか?」
「あ、いてます」
嶺歌は口をあんぐりと開けたまま、しかし直ぐに返事を返す。同時に願ってもいないこの状況に胸を高鳴らせてもいた。まさか今日会えるとは夢にも思うまい。
嶺歌は疑問と嬉しさとで思考回路を動かしながらも兜悟朗に差し出された手を無意識にとった。ああ、この感覚が本当に幸せだ――。
そのまま兜悟朗に連れられ移動する。
今回もどうやら兜悟朗は半休を取得したようで、リムジンではなく私用車を持ち出していた。
彼の所有するこの車に何度も乗れている事実が嬉しく、嶺歌はとてつもない幸福感で満たされる。
そうして横でハンドルを握る紳士な男性の存在に胸を高鳴らせていた。
(どうして誘ってくれたんだろう)
今日は本当に何も予定がなかったからこうして彼について来れていたが、もし嶺歌に予定があったら兜悟朗はどうするつもりだったのだろうか。
しかしそんな答えは明白だ。彼は穏やかに笑って立ち去っていくに決まっている。そういう物腰の柔らかい人だ。
「あの、もし今日予定があるって言ったらどうされてたんですか?」
嶺歌はそのまま尋ねてみる。自分の顔は赤いままだ。
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