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「お帰りなさいませ。形南お嬢様、和泉様。こちらへどうぞ」
「ええ兜悟朗、お留守番ご苦労様。とても楽しかったですの」
「労いのお言葉、感謝いたします。それはとても何よりなお話で御座います」
そんな会話をしながら兜悟朗は形南を車に乗せようとするが彼女は「私の前に嶺歌から乗せてあげて頂戴な」と予想外の言葉を口にした。初めは主である形南の方から乗るべきではないのだろうか。
(今朝もそうだったけど、どうしてだろ)
そう思いつつもそれを口に出すのは憚られた。形南からの気遣いである事だけは分かるからだ。
すかさず嶺歌をリムジンに誘導する兜悟朗に大人しく従って車に乗車する。
それから形南も座席へと座り、昼食を食べる目的地に向けて再び車は発進した。
昼食は高級レストランだった。上品に言うならばランチというのだろうか。
事前に予約してもらっていたそのランチ会場は貸切になっており、嶺歌達以外に誰一人として客がいなかった。
高級レストランを予想していなかったと言えば嘘になるが、それでも貸切にしてしまう展開までは予想を超えていた。
嶺歌はごくりと生唾を飲み込むといかにも高級そうな会場を見回す。
「ささ、遠慮なさらずに。嶺歌はどの席に座りたいかしら?」
形南は以前にもここに来たことがあるようで踊るように動きながら楽しげに尋ねてくる。どうやら好きな席を選んで食事ができるらしい。
嶺歌は中庭が綺麗に見える窓側のエリアに目を向けていると「そちらは私もお気に入りの場所ですのよ! そちらになさる?」と続けて声を掛けてきた。まるで彼女は案内人のようだ。
「いや、あれなの好きな席にしようよ」
「そうはいきませんの! 本日は貴女との交流なのですから!」
彼女の言動からして形南は嶺歌に選んでほしいようだ。ここまで言われては断るのも無礼だろう。
嶺歌は先程の窓側の席を選ぶと形南も嬉しそうに大きく頷きそこで食事を摂ることになった。
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