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「まあ! どれも似合うので迷ってしまうわ!」
何度か試着を繰り返した結果、形南は困ったような言葉を口にする。
しかしそんな発言とは対照的に彼女はどことなく楽しそうだ。
嶺歌は試着も長いショッピングも好きであったが、ここまで彼女に付き合ってもらい続ける事に少なくとも申し訳ない思いが生まれていた。
「あたしのはたくさん見たしあれなも好きなの選んだらどうかな?」
「いいえ! 本日は嶺歌デーですので! 最後までお付き合いさせて下さいまし!」
形南はそう言って全く自身の服を選ぼうとはしなかった。服を選び始めてから数時間、ずっと形南は嶺歌の服だけを探している。
「ありがと。じゃあこれはどうかな」
彼女の気持ちは素直に嬉しい。だがそろそろ服選びは終わりにしてもいいだろう。
嶺歌は先程試着した自分も好みであった一着のワンピースを手に取って見せると形南は「そうですわね」と笑みを向けてくる。
「私もそちらお似合いだと思いましたの! そちらにしましょうか」
「うん。本当にありがとね。これ以上ない機会だと思うから、貴重な体験させてもらったよ」
そう言葉に返し、お会計に向かおうとすると形南は立ち止まり「あら、そちらのお洋服になさるならこちらも合うのではなくて?」とマネキンに着せられたジャケットを手で差し出した。
「え……」
「絶対似合いますの! ねえこちらも試着して下さらない!?」
(いや、このワンピースだけでもホントにやばい値段なのにこのジャケットって……)
そう、このジャケット一つで車が買えてしまうのではなかろうか。それほどまでに高額なそのジャケットに嶺歌は手を伸ばす勇気さえ出なかった。
嶺歌は無言で首を振るが形南は嬉しそうに「遠慮はなさらないでと申したでしょう!」と言ってほぼ無理やりに試着室に押し込んできた。
とんでもないお嬢様だ。嶺歌は罪悪感を抱きながら服を試着するのであった。
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