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第六話『予想外の訪問者』
――――――『それでしたら兜悟朗と恋仲になりなさいな!』
翌朝になっても昨日の形南の言葉は理解不能であった。何故急にそのような話になったのだろうか。考えてみても全く分からない。
昨日、あの台詞で驚く嶺歌に形南は再び言葉を続けてきていた。
『あら、そこまで驚かれる事かしら? 嶺歌には現在恋人や意中のお相手がいらっしゃらないと判断してのご提案なのですけれど』
『…そういう問題じゃなくて……いや、確かにどっちもいないけど』
嶺歌はそう言葉を返すとそれまで口を閉ざしていた兜悟朗がようやく口を開き出す。
『お嬢様、お言葉ですが些かお戯が過ぎます。和泉様がお困りで御座いますよ』
彼の言葉は今思い返しても有り難い。何度心の中で頷いた事だろうか。
形南は不思議そうな顔をしてそうかしらと声を出すと『じゃあ今のは忘れて構いませんの』と百八十度違う言葉を口にした。
その発言で嶺歌はホッとしたのだが、形南は更にもう一つ言葉を付け加えた。
『ですが、お互いがいいなと思われたら遠慮なくお付き合いをして下さいましね。私あなた達なら大歓迎ですの!』
『いやあ…………』
そんなやり取りがあったのだ。
形南が何を思ってあのような言葉を口に出したのかは翌朝になっても分からないままであったが、彼女が冗談であんな事を口にした訳ではない事は理解していた。だからこそ、困惑しているのだ。
「いや、別に執事さんとそうなる事なんてないけどさ」
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