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嶺歌は誰もいない自室で一人呟き始める。
兜悟朗の事はこの数日間でそれとなく人となりが分かってきていた。
彼は万能で有能。逞しい肉体に顔立ちの整った表情は常に穏やかな笑みを向けており、腰も低く柔らかい。そして何と言っても紳士的だ。仕事も早く彼の動きにはいつも無駄がなかった。
兜悟朗は文句なしのハイスペックな執事だと誰が見ても口を揃えてそう言うだろう。しかし――――――
(あたしより絶対かなり年上じゃん……!!!)
兜悟朗のプロフィールはよく知らない。
だが確実に七歳以上、いや下手をしたら十二歳くらいは離れているかもしれない。
嶺歌が知っている彼はこの数日間自身の目で見てきた彼の動作や言動のみである。
形南から兜悟朗の話を聞いた事は勿論、嶺歌から聞く事もなかった。そして当然の如く、兜悟朗本人から聞く事もなかった。
しかしそれでも彼の年齢はそれとなく予想する事ができる。
(別に歳の差とか気にしないけど)
問題は彼の方だ。未成年の、しかもいくつも離れた年下の女など、ただの小娘にすぎないだろう。
たとえ嶺歌が兜悟朗を良いと思ったとしても兜悟朗が嶺歌をそういった目で見る事はないのではなかろうか。
それに嶺歌自身、ここまで考えてはいても好きでもない異性と付き合いたいとは思わない。
嶺歌はそもそも恋人の存在を必要としていないからだ。形南の言葉は気持ちだけ受け取っておくことにしよう。そう考えを纏めてこれ以上の思考はやめることにした。
(まあでも、それだけあたしを友達として好いてくれてるって事だよね)
形南が好きでもない友人を自身の身を守る大切な執事とくっ付けさせようとする事はあり得ないだろう。
嶺歌はそこまで思考が行き着くと自然と口元が緩まるのを感じた。形南にそう思われている事が何だかとても嬉しく思えたのだ。
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