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「で、何か用があるの? あたしたち話した事ないと思うんだけど」
単刀直入にそう問いかける。彼が自分に話しかけてきた事は勿論、嶺歌が彼に話しかけた事もないのだ。形南が関係しているとしか思えないのだが、とりあえず率直に尋ねてみる事にした。
対面した平尾は相変わらず気弱そうな表情をしながら話しづらそうに小さく口を開き始める。
「あ、うん……えっと高円寺院さん知ってるよね?」
やはり形南だ。
あれから彼女に平尾との話は聞いていた。形南は当初口にしていたように今すぐに彼とどうこうなるつもりはないようで現時点では彼と友人関係を続けている様であった。
嶺歌はうんと口にして頷くと平尾はホッとしたような顔を出してから再び言葉を続ける。
「良かった、実は俺もあの子と最近知り合って友達になったんだけど……」
「うん、あれなに聞いてるよ。でも何であたしに?」
形南と平尾が知り合いである事は当然ながら知っている話だったが、平尾には嶺歌が出逢いの場に関わっているという事は秘密である。ゆえに形南と彼が知り合いだというその点に疑問は全くない。
問題はクラスの友人らの話を聞くに、二組の平尾が自分に会いに一組まで来ているということは何か用があって来たという事なのだろうが、その用であろう事柄に嶺歌は皆目見当がつかなかった。彼が自分を訪ねてきた理由は何なのだろう。
そう思っていると平尾は再び困った様な顔をして「ええと」と言いながらバツの悪そうな顔をしている。
こう思っては失礼なのだが、形南は何故この男を好きになったのだろうか。
嶺歌は差別を嫌うが、彼に惚れる要素には全く同意できなかった。友人としては良くても一人の男としてはあまりにも頼りなさすぎる。
そんな事を考えながら彼を見ていると平尾は決心がついたのか、ようやく口を開き出す。
「あれちゃんに言われたんだ。君……えっと和泉さんは友達だから俺にも是非仲良くしてほしいって」
「あれなに?」
「う、うん。そう……だから、とりあえず自己紹介しようと思って、その、教室に……」
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