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確かに形南なら言いそうな台詞だ。納得ととある疑問が同時に生まれながらも嶺歌は「そっか」と言葉を返した。
そうして彼の方へそっと手を伸ばす。
「そういう事なら宜しく平尾君。名前は知ってるし言わなくて大丈夫。あたしのフルネームは知ってる?」
「えっあ、うん。和泉嶺歌さんでしょ? よ、よろしく」
平尾は予想外だったのか丸い目をさらに丸くさせると辿々しく嶺歌の手に自身の手を重ねて握手をする。
二回ほど手を揺らした後、彼から手を離すと嶺歌は小さく笑みを向けて言葉を返した。
「今度教室来る時はあんな事にはならない様にしとくから、安心してよ。ていうかあたしの友達が言った事に気分悪くならなかった? 本当ごめん」
先程の状況を思い出し彼に謝罪した。悪気がないにしろ、平尾からすればあの状況は酷だった事だろう。
自己主張を苦手とする人間は、多人数の者に囲まれる事に恐怖を感じる者も多い。
嶺歌は彼の心中を察すると謝らずにはいられなかった。
すると平尾は再び驚いた様子で目を見開くと「いや、全然っ! 俺も突然だったからごめん」と悪くもないのに謝罪をしてきた。
そこに思うところはあったが、あまり口に出しすぎるのはよくないだろう。
嶺歌はそんなの気にしないでよとだけ言葉を返すとそのまま手を振って「じゃあまた」と裏庭を後にした。あまり長い時間彼と二人でいるのは嫌だった。
それは彼の良さが嶺歌には分からない、という理由からではない。
(あれなに悪いからね)
形南の意中の相手と自分が二人きりで過ごす事に関してどうしても後ろめたさがついてくる。
形南もどういったつもりで嶺歌と平尾を繋げようとしたのだろうか。彼女らしいと言えばそうであるが予測しておくべき不安点がある。
嶺歌からは絶対にあり得ないと断言できるが、もし仮に平尾が嶺歌をそういった対象で見てしまったらどうするのだろうか。
秀才な形南であれば想像できないことではない筈である。
リスクを負ってまで自分と平尾を交流させようとする形南の思考は、嶺歌にはよく分からなかった。
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