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「近頃、和泉様と平尾様がご友人関係になられたとお聞きしております」
「はい、なりました」
平尾と友人になってからまだ一週間も経っていない。嶺歌は彼の言葉を正直に肯定してみせると兜悟朗はその事に関してもう一度言葉を発した。
「率直に申し上げます。和泉様は、平尾様がご自分の事を好いてしまうのではないかと危惧されておりませんか」
「えっ!?」
驚いた。嶺歌は大きく目を見開き、咄嗟に彼の瞳に焦点を向ける。
言葉を出すよりも無言のままどうしてと目で訴えかけてしまう程には嶺歌は動揺し、何より驚愕していた。彼の言う通りだったからだ。こうも的確に自身の感情を見抜かれるのは初めての事であった。
それにこのような自意識過剰とも言える感情をほぼ他人である彼に看破されるとは思わなかった。驚きで口を開けたまま静止する嶺歌を前に兜悟朗はそのまま言葉を続ける。
「直感で御座います。お気に障りましたら申し訳ありません」
彼はそう言うと嶺歌に柔らかな表情を向けたまま「ですが」と言葉を付け加えてくる。
「和泉様のご心配には及びません。お嬢様はたとえそうなったとしても、貴女様をお咎めになる事はないでしょう。勿論お嫌いになる事も」
嶺歌は未だに開いた口が塞がらないまま彼の言葉に耳を傾けていた。兜悟朗が話している内容は理解こそ出来ているが、納得はできない。何を根拠にその様な言葉を断言できるのだろう。
嶺歌は困惑した顔を隠せないまま兜悟朗の話の続きを待った。
「ご納得頂けないのも承知しております。ですが、形南お嬢様はそのようなお方なのです」
「あれなが何を考えてるのか分かるんですか?」
ようやく言葉を口に出せた嶺歌は腰を掛けていた椅子に座り直すと改めて彼に視線を向けた。兜悟朗は先程と変わらぬ丁寧な口調で嶺歌の質問に回答していく。
「はい。お嬢様はただご自身の運命のお方と大切なご友人に仲良くなってほしいだけなのです」
その言葉には妙な説得力があった。形南と知り合ってまだ一ヶ月も経ってはいなかったが、それでもそれなりに濃い時間を彼女とは過ごしている。その中で形南がいかに友人を大切にする人物であるかは嶺歌自身が実感していた。
だが、いくら気を許しているとはいえ、自分の想い人と友人が親しくする事に嫌悪感はないのだろうか。
嫉妬をしない人間はいないだろう。嶺歌はそこが引っ掛かっていた。だが兜悟朗は再び嶺歌の心を見抜くようにこの様な言葉を口にする。
「万が一そうなってしまったとしても、お嬢様はご自分が努力をすれば良いのだとそう仰る事でしょう。リスクを知っていても尚、お二人には仲を深めていただきたいとお思いなのです。ですから和泉様には気兼ねなく、平尾様と友好関係を築いていただきたいので御座います」
「…………」
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