第七話『忠実な執事』

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 嶺歌(れか)は再び言葉が出なかった。言葉が出ない状態で、テーブルに置かれたまだ温かいココアに目を落とす。すると兜悟朗(とうごろう)の思いがけない言葉が続けて放たれてくる。 「実はお嬢様のご内情をこうしてお話しするのは貴女様が初めてなのです」 「えっ……!!?」  兜悟朗は小さく笑みを溢すと言葉を続ける。 「本来であれば、お嬢様に関する事柄を話すべきではないでしょう。主人の許可なく口外する行為が無礼である事は承知しているのです。ですがお嬢様は賢明なお方でありながらも少々お言葉に欠けてしまう所が御座います。  お相手も理解されていると思い込まれる節があるのです。和泉様に誤解を持たれてはお嬢様のご友人関係が危うくなってしまわれます。ですので和泉様にはご説明の場を頂きたいと(わたくし)自らの判断でこうしてお話をしに参りました」  兜悟朗の声色は変わらず柔らかいものであったがその言葉には強い意志が感じられた。  つまり彼は形南(あれな)の不可思議な行動で、嶺歌という友人を失ってしまわないようにとこうして裏から支える為に嶺歌に会いに来ているという事だ。  嶺歌は、穏やかさの中に隠せずにある真剣な瞳で、こちらに目を向ける彼が嘘偽りなく主人を慕っているものであると感じ取る。そして彼の形南を思う気持ちは決して生半可なものなどではないのだと、この瞬間に改めてそう理解していた。 「……何も言ってないのにあたしが平尾君との友情を躊躇っているのは何で分かったんですか?」  嶺歌は気が付けば質問をしていた。平尾との関係に疑問を持ち、友達にはなっていたもののあえて積極的に関わっていなかったのは事実であるが、それを形南は勿論のこと他の者にも話した事は一度もない。  それに兜悟朗には平尾と友人になって以降一度も会っていないのだ。なのに何故彼はそれを知っているのだろう。直感だとは言っていたが妙な話だ。  嶺歌は話が逸れてでもその答えを知りたいと思っていた。 「以前貴女様の事をお調べしたと申し上げたのを覚えておられますか」  すると兜悟朗は唐突にそんな言葉を口にする。その事は覚えている。嶺歌は無言で頷くと彼は再び口を開く。 「その際に和泉様のご性格は理解しておりました。ですので、今回の件で必ず貴女様はお気になさると考えたのです」 「それって……」
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