第八話『招待』

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 そう、兜悟朗(とうごろう)形南(あれな)の護衛も兼任している専属執事だ。そんな人が、知り合ってまだ日も浅い人間の差し入れを疑わない訳がない。万が一にでも毒が入っていたら大切なお嬢様を失う事になるのだ。彼はその事を危惧している為あのような表情をしているのだろう。  何故彼が形南に声を掛けないのかは分からないが、毒味役がいた方が彼にとっては安心できる筈だ。  そう思った嶺歌(れか)は未だに不思議そうな顔をした形南からクッキーをほぼ奪うような形で受け取り、そのまま即座に自分の口の中へと放り込んだ。無礼は承知だ。それから咀嚼をし、飲み込む。そして苦笑しながら兜悟朗の方を見て言葉を口にした。 「執事さんご心配おかけしてすみません……この通り、毒などないので安心して見守ってもらえればと!」  そう言って彼に小さく会釈をすると兜悟朗は胸を打たれたような顔をして深々と頭を下げる。しかし彼は次に予想していない言葉を口に出してきた。 「申し訳御座いません。誤解を生ませてしまいました」 「…………えっ?」  誤解? 一体何の話だろう。嶺歌は混乱したまま未だに頭を下げ続ける彼を見つめていると横からくすくすと可愛らしい笑い声が耳に響く。形南だ。 「まあ嶺歌、何て逞しいお方なのかしら。ですがお礼を言わねばなりませんね。(わたくし)と兜悟朗に気を遣って下さり有難うございますの」 「え? うんそれは……」  形南の言っていることも何だか不思議だ。嶺歌はこの状況をうまく飲み込めないまま二人を交互に見る。  するとようやく顔を上げた兜悟朗が一から説明をしてくれた。彼は再び深い一礼をしながらこのような言葉を口に出す。 「先に申し上げさせていただきますと、(わたくし)は和泉様の差し入れにそのようなものが入っているとは疑っておりません。それは現在も同じ思いで御座います」 「そうなんですか? でも執事さんは心配そうにあれなを見ているように感じたんですけど」  嶺歌は彼の言葉に正直な意見を口にする。失礼のないようにとは思っているが、ここは腹を割って話した方が今後の形南の為だろうとそう思っていた。  だが兜悟朗はこの嶺歌の言葉を否定してみせると次にこのような言葉を放つ。 「仰る通り、形南お嬢様を喜ばしい思いだけで拝見できていなかった事は否定出来ません。ですが、その件に関しては和泉様の関与するところではないのです」 「ええっと、どういうことでしょうか…?」
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