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彼は嶺歌の差し入れのせいで形南を案じていた訳ではないと言う。だがそれ以外に彼が顔を曇らせる理由があるのだろうか。嶺歌は訳がわからず兜悟朗に視線を向けたまま自身の頬を掻いた。
すると兜悟朗ではなく今度は形南が言葉を付け加え始める。
「嶺歌。兜悟朗はね、以前の事を思い出していましたのよ。昔私が手作りを頂いて倒れたことがありますの。兜悟朗はそれを思い出して胸を痛めていたのですのよ」
「えっ!!!?」
「お嬢様の仰る通りで御座います。しかしお客様に悟られてしまうような失態を犯してしまいました。大変申し訳御座いません」
「いいのよ兜悟朗。ですが貴方はそろそろ吹っ切る努力をなさいね。もう八年も前の話ですのよ」
「精進いたします。和泉様もご不快な思いをさせてしまいました事、謹んでお詫び申し上げます」
「いやそれは全然……ていうか倒れたって……」
それは心配するのも当然だ。ましてやその時と同じような場面で倒れてしまうなど、忘れられるはずがない。嶺歌は頭を下げる兜悟朗を見てそれをするのは自分であるだろうと酷く申し訳ない気持ちが湧き起こった。
「倒れたっていうのはどうして?」
嶺歌は不安な気持ちを抱いたまま形南と兜悟朗に問い掛ける。まさかとは思うが以前、毒を盛られた事でもあるのだろうか。そう考えるとゾッとする。
しかし嶺歌の不安げな顔に気付いたのか形南は大きく手を振って「ご安心くださいな!」といつもより大きく声を上げた。
「毒など盛られた経験はなくてよ。私が倒れた要因は食物アレルギーですの。その時はアレルギーがあるだなんて知らなかったのですのよ」
「アレルギー……そっか、でも今は?」
「ふふ、今はアレルギーが治ったのですの。稀な事のようですけど、今はアレルギーがないのですのよ」
アレルギーは成長すると人によって症状が起きなくなる者とそうでない者とで分かれるという話を聞いた事がある。形南は前者なのであろう。嶺歌はその言葉にホッと胸を撫でおろすと力が抜けたのかそのままソファに座り込んだ。
「なんだ……良かった…」
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