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そう呟きもう一度小さく息を吐くと形南のくすくすと上品に笑う声が降りかかってくる。
「嶺歌。貴女想像以上に素敵なお方ね。私感動致しましたの。ねえ兜悟朗、貴方もそう思うでしょう?」
形南は嶺歌の行動に喜んでいるようだった。嶺歌としてはヒヤヒヤした思いでそれどころではなかったのだが、こうして何も問題がなかった上に彼女が笑えているのならそれでいいかとも思える。
何にせよ、手作りのお菓子を持ってきた事は間違いではなかったのだ。それだけで嶺歌は安堵する事が出来ていた。
しかし一点だけ腑に落ちない事が今の一連の流れで出てきた。
嶺歌は楽しげに微笑む形南を見返しながら問い掛ける事にする。何故彼女は突然の差し入れに警戒を示さないのかと。自分で持ってきておいて何であるが、ご令嬢である形南が安易に嶺歌の手作りを口にするのは、少し警戒心に欠けているのではないかと思うのだ。
するとその質問には形南ではなく兜悟朗が口を開く。
「そちらの点においては私からご説明を。お言葉ではありますが和泉様、その前に私の方からもひとつ宜しいでしょうか」
「はっはい!?」
質問に質問を返されるとは思わず嶺歌は柄になく言葉をつっかえる。しかし直ぐにどうぞと言葉を付け加えると彼は小さく微笑んでから言の葉を繰り出してきた。
「何故私が、貴女様の作られたクッキーをお嬢様が口になさる所を静かに見ていたのかお分かりでしょうか」
「えっとそれは……それが分からなくて」
嶺歌は先程も気になっていたがその理由が分からなかった。何故彼は形南の隣に立ち、毒味役を買って出なかったのだろうか。
「お嬢様にご命令をいただいていたからで御座います。和泉様が何を出そうと私が関与する事は許さないと。そう命令を受けていたのです」
「あれなが?」
「その通りで御座います。ですが理由はもうひとつ御座います」
「もうひとつ?」
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