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第九話『お世辞だとしても』
「平尾様と素敵な出逢いを果たせた時、貴女の魔法少女姿をお目にした事がありましたけれど、あの時本当はもっとよく見せていただきたかったのですのよ」
そう言われ、以前の事を思い出す。確かにあの時は形南も平尾との出逢いに浸っており、他に時間を費やしている余裕はなさそうだった。
今、この部屋には形南と執事である兜悟朗しかいない。魔法少女に変身する事に問題はなさそうだった。嶺歌は多少の恥ずかしさを持ちながらも彼女が見たがっているならと魔法少女の姿になる事を決める。
しかし理由はこれだけではない。自分自身も気に入っているこの姿を誰かに見せる為に変身するのはいつもとは違って何だか新鮮で嬉しかったからだ。
嶺歌は目を輝かせ続ける形南に頷き了承してみせると彼女は途端に喜びの笑みを向け、自身の両手を上品に合わせる。
嶺歌はそんな彼女の仕草に和やかな思いを抱きながら自身の変身に欠かせない魔法の透明ステッキを手に取り出した。これは名前の通り透明になっており、持ち主である嶺歌以外には目視する事ができない。
せっかくなので形南に見せたかったのが本音だが、その方法がないためステッキの説明は割愛する事にした。そのままステッキをくるくると回しながらいつもの様に人間の姿から魔法少女の姿へと変身を遂げる。
いつもと違うのは、目の前にそれを見ている人物がいるという事だ。
(なんか、照れるな)
そんな事を頭の隅で考えながらも無事に変身を終えると先程とは全く異なる嶺歌のその姿に形南は大歓声を上げ、随分興奮した様子でこちらに駆け寄ってくる。
「素敵ですの! 私感動いたしました!! 今のが変身というものなのですね!!! キラキラと光られて、あっという間に嶺歌の姿が変わりましたの! でも私、変身の瞬間も捉えましたのよ!」
興奮状態の形南はこれまでも何度か目にしてはいたが、今回の彼女は今までのとは比較にならない程の興奮ぶりである。嶺歌はそんな彼女の反応が嬉しく、形南の次々と放たれる感激の言葉に声を返していた。
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