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形南の反応は随分と長く続いていたが、途中で嶺歌は側で静かに主人を見守っている兜悟朗の姿が気になった。
魔法少女の姿に興味を顕にする形南とは対照的に彼はただの付き人であり魔法少女になど無関心であろう。そんな人物の前でこうして魔法少女の姿を堂々と見せてしまっている事実に嶺歌は今更ながら気が付く。主人を護衛する執事であるのだから仕方のない話ではあるのだが、少し複雑な思いも生まれていた。
「とてもお似合いで貴女に相応しい装いですわ! ねえ兜悟朗、貴方も何か言いなさいな」
形南は賛美の言葉を告げると唐突に思いもよらぬ発言を兜悟朗へと向け始める。その言葉で嶺歌は途端に面食らってしまった。
形南の褒め言葉は嬉しいが、兜悟朗の意見を聞くのは何だか気が乗らなかったからだ。その理由は明白である。
(お世辞なんて嬉しくないし……あれなだけに見せられたら良かったな)
嶺歌はお世辞が嫌いだ。本当に思ってもいない事をわざわざ口に出す意味が理解できないからである。形南に促された兜悟朗がどのような台詞を口にするかはそれとなく予想ができていた。
そんな事を思っていると兜悟朗は主人の命令通りにこちらに目を向け、口を開き始める。しかしそれは嶺歌の考えていた言葉ではなかった。
「実のところ、私は和泉様のそちらのお姿を拝見するのは平尾様の件が初めてでは御座いません。何度かお見かけしております」
「えっ?」
彼の初めの言葉に意表をつかれる。形南にも兜悟朗にもこの姿を見せたのは平尾の時と今との二回のはずだ。
しかしそこで以前の話を思い出す。そうだ。嶺歌に出会う前に自分の事を調査したと形南が言っていた。その際に彼はこの嶺歌の姿を何度か見かけていたのかもしれない。
(それはそれでなんか恥ずいな……)
そう思い再び顔がほのかに赤くなるのも束の間、兜悟朗はそのまま言葉を紡ぎ出す。
「その際に何度も思っておりました。和泉様のそのお姿は逞しく勇ましい、とても魅力的で御座います」
「…………」
(えっ!!!??)
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