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驚いた。彼の予想外の出だしの言葉よりも自身の目が大きく見開かれたのを実感する。嶺歌はてっきり可愛い、美しい、綺麗などと女性によく向けられる言葉をお世辞で言われるものだと思い込んでいた。
嶺歌はお世辞は嫌いだが、褒め言葉でそれらを使われる事は好きだった。だが彼が今口にしたのはどちらかと言うと男性に向けられそうなそんな言葉回しだ。
(なのに……)
不思議な話である。それだと言うのに嶺歌の心には不快な感情が全く湧き上がっていなかった。それどころか、たとえこれがお世辞であったとしても嬉しいと思う自分がいる。
兜悟朗の一つ一つの言葉には敬意が示されており、それらを感じ取れていたからだ。彼の態度や言葉遣い、全てに敬服が込められているのが伝わってくる。
だからこれらが社交辞令であったとしても、気分を害する事など有り得ない。先程までお世辞は嫌だと思っていた嶺歌がそう思ってしまう程の言葉の力を、彼は持っていた。
「あ、ありがとうございます……」
柄にもなく顔を赤らめ照れてしまう嶺歌は自身の体温が上がっている事に気が付いた。羞恥心のせいなのか、顔を上げられずに俯いているとそんな様子を「あらあら」と形南に指摘される。
「嶺歌ってば照れてしまわれたのね。兜悟朗の言葉は真っ直ぐで偽りのないものですの。無理もありませんね」
そう言ってくすくすと笑う形南と黙って静かに微笑む兜悟朗を横目に嶺歌は自分の顔の熱が冷めるのをじっと待っていた。「少し待ってください」と言葉を口に出しながら。
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