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しばらくして自身に落ち着きを取り戻すと俯いていたままの顔をようやく上げ「もう大丈夫です」と声を返す。
すると静かに見守ってくれていた内の一人である形南が両手を合わせて「ねえ嶺歌」と声を発し、彼女は先程のような温度感を保ちながら喜ばしそうにこんな言葉を告げてきた。
「宜しければ貴女とのツーショットを絵に残したいの。どうかしら?」
「絵に?」
「そうですの! お写真も良いですけれど、絵画の方が私は好きですの」
形南は満面の笑みを一切崩す事なくそのような言葉を口にする。照れ臭いのは否定できないが、絵画に残す事自体は構わない。しかし嶺歌はそこである問題点に思考が働いた。
(あれなと執事さん以外にこの姿を見られるのは……)
重大な問題である。この二人以外に魔法少女の存在を知られる訳にはいかないからだ。記憶が自動的に削除されるにしても、リスクが大きすぎるだろう。しかしそれは彼女たちも理解している筈だ。
嶺歌はすぐにその事を指摘すると形南はそれでも表情を崩す事はなく、こちらの意見に予想外な回答を返してきた。
「その点は全く問題ありませんの。ねえ兜悟朗?」
形南はそう言っていつものように自身の執事の名を呼ぶと彼はすぐに「はいお嬢様。準備は出来ております」と返事をする。そうしていつの間にか、彼が絵筆を持っている事に気が付いた。
嶺歌は頭が回らずどういうことかと眉根を寄せると形南はすぐに補足の言葉を口にした。
「絵を描くのは兜悟朗ですの。何も心配は要らないのですのよ」
「うそ……」
兜悟朗が万能な執事である事はこの短い間で十分に分かっていた。だがまさか絵画の嗜みまであるとは思いもよるまい。この執事は一体何者なのだろう。
そんな疑問を抱きながらも形南に促され、しばらく彼の絵画のモデルとして形南と共にソファに腰掛け、初の絵画のモデルを体験するのであった。
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