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休み時間になると同じクラスの男子学生に裏庭へ呼び出された。いつも親しげに会話をするその男子学生は、いつもと違う改まった様子で嶺歌の到着を待っていた。そして周りに誰もいない事を確認するとそのまま嶺歌に一歩近づき言葉を放つ。
「和泉が好きだ」
それは嶺歌の予想していた通りの内容だった。このように異性から告白をされる事はそう少なくなかった。
だが嶺歌には彼の期待に応える程の感情がない。これまでと同様に真剣な眼差しでこのように想いを告げられていても、嶺歌に響く事は一度としてなかったのだ。
「ごめん。そういう目で見れない」
彼に少しだけ視線を送り、小さくしかしはっきりと言葉を返す。自分の事は吹っ切ってどうか彼を好いてくれる女の子と幸せになってほしいと思う。それが自分に勇気を出して想いを告げてくれた相手に対してのせめてもの願いであった。
嶺歌の返答に悲しげな表情を見せながらもそのまま堪えて彼は逃げるように去っていく。同じクラスであるため、少々気まずいところもあるが、それは時間が解決してくれるだろう。
そう思いながら去っていく男子学生の背中をぼんやりと見つめていた。
(そろそろあたしも戻るかなっと)
男子学生に気を遣って時間をずらしていた嶺歌は数分が経過したところで教室へ戻ろうと足を動かす。しかし裏庭の曲がり角を曲がったところでとある人物の姿に目を見開いた。
「えっ……」
「……申し訳御座いません。覗き見をするつもりはなかったのですが」
そこには何故か、本当に何故か、形南の執事である兜悟朗の姿があった――――。
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