第十話『告白とライバル』

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兜悟朗(とうごろう)さん? どうしてここに……」  言いかけたところで誰かが裏庭の扉を開けて入ってくる音が聞こえてくる。ここは曲がり角で死角となっており、誰が来たのかは見えないが兜悟朗がいる所を見られたらまずいのではないだろうか。  そう思った時だった。「失礼致します」という言葉と共に背後から口を塞がれ、そのままの体勢で人目から逃れるように木陰の方へと移動させられる。 「!?」  何が起こっているのか分からなかった。しかし嶺歌(れか)の口を塞ぎ、空いてる方の手でがっしりと肩を掴んでいるのはあの兜悟朗で間違いない。当然のごとく、振り解く事などは無謀な事だった。  何故紳士的な彼がこんな事を……そう思ったのも束の間、聞き慣れた声が嶺歌の耳に響いてきた。 「は、話って何?」  この声は平尾だ。嶺歌は驚き、そのまま目線を裏庭の方へと向ける。体勢的に身体を向ける事は出来なかったが、視界の隅では彼の姿を捉える事ができた。そして思った通り、そこには平尾が立っていた。  しかし彼はもう一人知らない女子学生と互いに向き合っている状態だ。あれは誰だろう。そんな事を考えていると真上から言葉が降りかかってくる。 「嶺歌さん、無礼な真似をして大変申し訳御座いません」  兜悟朗は丁寧な口調で声が漏れないよう小さく謝罪の言葉を口にし始めた。同時に塞いでいた手を嶺歌の口から離し、こちらは声を発せられる状態になる。  そして兜悟朗のその言葉を聞いて嶺歌は安堵した。彼の気が狂った訳ではないのだと理解出来たからだ。隠れているこの状況は、どうにかして欲しいものだが、今動けば確実に相手の二人に見つかってしまうだろう。嶺歌は今だけは大人しく兜悟朗に身体を預ける事にした。  すると兜悟朗は次にこのような言葉を繰り出してくる。 「私は今回平尾様を尾行しておりました。今(わたくし)達が目にしている光景は形南(あれな)お嬢様も危惧されていた状況なので御座います」 「あれなが……ですか!?」  彼の言葉に耳を疑った。平尾はどうやら知らない女子学生に告白をされているようだった。その事にも驚きだが、それをなぜ形南が知っているのだろう。そんな嶺歌の疑問を他所に兜悟朗は言葉を続ける。
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