第十話『告白とライバル』

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 平尾は女子学生の告白に余程動揺したのか暫く沈黙したままだった。そして暫くの時間が経過するとようやく口を開き「ごめん」という言葉を告げる。  女子学生はその返答に涙を流しながら「分かりました」と言葉を残し、小さな背中を彼に向けるとそのまま立ち去っていく。平尾は彼女を呼び止める事も声をかける事もせずただその場で暫く立ったままだった。 (早く戻ってくれないかな……)  嶺歌(れか)としては一刻も早い平尾の離脱を望んでいた。彼がこの場を離れなければ兜悟朗(とうごろう)との距離感が近いままだからだ。  その場で立ちすくんでいる彼の姿に視線を送りながら心の中で早く立ち去ってくれと念じる。だが平尾は未だにその場にたたずみ、特に何かをするでもなく裏庭で時を過ごしていた。 (この状況……なんとかしたいのに)  嶺歌の赤面は未だに消える事はなく、兜悟朗に背中を預けたままの自身の鼓動も一向に止みそうにない。 「…………」  暫くの時間が過ぎてからようやく平尾は裏庭を後にした。  裏庭の扉を閉める音を聞いてようやく兜悟朗から素早く離れる。離れたにも関わらずまだ心臓は五月蝿いままだ。どうしたものだろうか。 「数々のご無礼、謹んでお詫び致します。何かご要望がありましたら何なりとお申し付け下さい」  すると兜悟朗は改まった様子でこちらに非礼を詫び始める。深々と下げられた頭は思わず見惚れてしまう程の綺麗な角度となり、彼の誠実さが伝わってきた。  しかしその堅実な姿勢に嶺歌は慌てて彼に言葉を返す。
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