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翌朝、兜悟朗がお詫びと称して菓子折りを届けにきた。嶺歌は必要ないと告げたのだが、彼はあの場で謝罪するだけでは自分を許せなかったようだ。
兜悟朗はそれだけを渡すとそのまま丁重な一礼を残して嶺歌の自宅を後にした。
呼び止める雰囲気でもなかったため、彼の背中を静かに見送り菓子折りを自宅に持ち入れると母に興奮した様子でこの菓子折りはどうしたのだと問い詰められた。
そんな予感はしていたのだが、兜悟朗が持ってきた菓子折りはただの菓子折りではなく、高級店の、しかも数量限定のとてつもなく貴重な品らしい。これには彼の本気度が伝わってくる。
しかも母がそれを知っていなければ嶺歌はこの菓子折りの価値を少しお高い美味しいお菓子としか認識できなかったであろう。お詫びの品にどれだけの価値があるのか告げる事もなくただ物だけを渡して立ち去っていった彼の事を考えると如何に兜悟朗という人物が出来た人間であるのかを思い知らされる。
(謙虚な方だな)
嶺歌はそう思いながら無意識に彼の柔らかな笑顔を思い浮かべた。
「れかちゃん、これ食べていい?」
そんな事を考えていると不意に嶺歌の妹――和泉嶺璃がこちらを覗き込む形で問い掛けてくる。嶺璃は分かりやすくソワソワした様子で目の前にある高級菓子折りを今すぐ食べたくて仕方がないといった具合だ。
その様子を見て思わず笑みが溢れ、そのままいいよと言葉を返す。どちらにせよ一人で食べるのは勿体無い。高級菓子など早々食べられるものではないのだ。これは兜悟朗の謝罪として受け取り、有り難く食べる事にしよう。
そう思った嶺歌は母と義父と嶺璃の四人で菓子折りの封を開け、仲良くいただくのであった。
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