第十一話『予兆』

3/9
前へ
/520ページ
次へ
 だがそれでも嶺歌(れか)は気分が高まっていた。好みは分からずとも彼女に渡すお返しを考える事自体が、楽しいと感じられたからだ。 (今月中には渡したいな)  今は六月に入ったばかりである。来月になると定期テストでプレゼント選びに時間が費やせないだろう。嶺歌はそんな事を考えているといつの間にか目的地の喫茶店に到着し、二人で店員に案内された座席へと腰を掛ける。  形南は笑顔を絶やさず楽しげにメニューを眺め、しかし何の料理が良いのか迷っている様子だった。  嶺歌はおすすめのメニューをいくつか提案し、形南(あれな)はその内の一つであるいちごパフェを注文した。嶺歌はパンケーキを選出する。  注文が終わると思っていた以上に早くデザートが到着し、そのまま二人で目の前に置かれたデザートを嗜む。デザートを頬張りながら嶺歌は思考していた。  先程、喫茶店の中に入る際に兜悟朗(とうごろう)が店員に何かを話している光景が目に映っていた。恐らく彼が形南の身分を店員に告げ、丁重にもてなす様に一言添えたのかもしれない。そう考えられる根拠はこの行きつけの喫茶店で五分もしないうちに料理が運ばれてくる事は初めてだったからだ。 「それで、平尾君とはあれから何か話したりした?」  嶺歌は頭の中を本来の目的である話題に変換させるとそのまま美味しそうにいちごクリームを口に入れる形南に問い掛ける。  その質問に形南は目線だけをこちらに向けてにっこりと笑みを見せた。いや、先程から彼女の表情には笑顔しかないのだが、今日一番の微笑みをこちらに向けるといちごクリームの咀嚼を終えた口元に手を添えながら言葉を発してきた。
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加