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「ええ、レインでやり取りをしましたの」
そう口にして嬉しそうに笑う。余程嬉しかったのだろう形南の笑顔を正面から見た嶺歌は良かったと相槌を打つと、形南は平尾とどのような内容のやり取りを行ったのか事細かく教えてくれた。
平尾が告白を受けた日の放課後、形南が無難な内容のメッセージを彼に送信したらしい。
それは彼が受けた告白に関しての記憶を少しでも薄めたかったからだそうだが、平尾は形南に唐突に『どうしよう、初めて女の子に告白されちゃって』と送り返してきたと言う。経験の浅い彼には告白はあまりにも衝撃的だったのだろう。
その返信を見た形南は自身はその事を知らない体を装い、彼の悩みを静かに聞く聞き役として徹していたようだ。
平尾は告白を断った事も形南に話していたようで、しかし断った事に関して後悔はないのだとも言っていたらしい。この台詞は形南にとって嬉しい以外の何ものでもないだろう。
形南は頬を普段より赤らめながらスマホを取り出してその画面に目を落とす。
「ふふ、見てくださいな。平尾様、意外と絵文字を使われないのですのよ」
そう言って嶺歌にレインのトーク画面を見せてきた。そこには形南と平尾のやり取りが記録された画面で埋まっており、嶺歌はそのままざっくりと二人のやり取りに目を向ける。
形南の言う通り、絵文字や顔文字が豊富な形南とは反対に平尾からのメッセージにはほとんど文字の装飾が見当たらなかった。形南はそんなところも意外性があって好きなのだと口にする。そうして自身の頬に手を添えながらこんな言葉を口にした。
「平尾様といつかお電話をしたいと思っているのですけれど、タイミングに迷いますわ」
「電話? いきなりかけちゃえば?」
「まあ! 大胆ですの!」
嶺歌の言葉に形南は思いも寄らなかったと言わんばかりの表情を見せるとスマホをじっと見つめ、「ご迷惑じゃないかしら」と口を零す。そんな様子の彼女は誰がどう見ても恋する一人の女の子だ。
形南は暫く悩んだ末、やはり今日は止めておくとスマホをそっと閉まっていた。そんな微笑ましい彼女の様子を見ながら、嶺歌は楽しい時を過ごすのであった。
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