第十一話『予兆』

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「兜悟朗、(わたくし)は嶺歌と門の外に行きますから貴方は私の部屋から例のものを持ってきて頂戴」 「畏まりました。(わたくし)が不在の間はもう一人の執事をお付けいたします。少々お待ち下さい」  兜悟朗が一礼をしながらそう告げ、通信機を取り出し内線を送ろうとしているところで形南が「結構ですの」とその行為を止めた。 「門の外とは言ってもすぐそこですの。それに(わたくし)はまだ嶺歌と二人で話し足りないのですのよ? 気になるのなら貴方が早く戻ればいい事。分かりまして?」  形南はいつものひょうきんな態度とは違い、威厳のある言い回しを彼に向けると兜悟朗は「差し出がましい真似をしてしまい申し訳御座いません。お嬢様」と深く謝罪をし、素早い足取りでその場を立ち去っていった。 「執事さん付けなくてよかったの?」  行き先が門のすぐ先とはいえ、財閥のお嬢様が出歩くのは不用心ではなかろうか。嶺歌は兜悟朗の心配する気持ちを察したが故にそう尋ねてみたが、形南は柔らかく笑いかけて「ご心配には及びませんの」と口にする。  今の形南は嶺歌に対して先程のような風格のある態度を見せてはいない。使い分けているのだろう。器用な女の子だと感じていると形南は話を切り上げ「ささ、こちらですのよ」とこちらの腕を引いて門の外へと出た。
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