第十一話『予兆』

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 どうやら平尾には仮定の話として、もしも自分がどこかのお坊ちゃんだとして、自身で表札を選べるとするのならどのデザインを選ぶのかと質問をしただけのようだ。そして平尾の好みを把握した形南(あれな)は彼が選んだ表札を購入して差し替えた。  平尾には自宅の表札を差し替えるという話は一言も告げていないらしい。何も知らない平尾は随分頭を悩ませてから今目の前に見えるこの銀色の表札を選んだそうだ。  つまり、平尾の好みを形南が勝手に自宅の表札に反映させたという至ってシンプルな話であった。 「『俺は銀色が一番格好いいと思うから』ですって!!! (わたくし)もその言葉をお聞きした時から銀色を見ると胸が躍りますの」 「…………」  平尾は今回関係するところではない。ただ聞かれるがままに自分の好みを答えただけだ。問題は形南である。これは流石に…… (ドン引きなんだけど……)  友人の斬新な行動力に嶺歌(れか)は苦い顔をしながらも正直な意見はそっと心の中に抑え込んだ。彼女本人にこれを告げるのは無礼な上に、傷つけてしまうかもしれないからだ。彼女の行動に理解を示すことは出来ないが、この理解不能な行動も形南の個性なのだろう。  形南のしている事は少々度を越しているような気もするが、決して他人に迷惑を掛けている訳ではない。嶺歌は価値観は人それぞれであると、そう結論づける事にした。
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