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しかし形南がいかに平尾に熱を上げているのかが今回の件で分かった気がする。盲目的とも言える彼女の行動は、しかし本人にとってとても楽しそうだ。
だが平尾がこれを知ったらどうなってしまうのかを考えるとこの事は彼に知られないようにするのが賢明だろう。嶺歌は伏せた目を元に戻すと熱い眼差しで銀色の表札を眺め続ける形南に目を向けた。
「良かったねあれな」
「ええですの! ねえ嶺歌も素敵なデザインだと思うでしょう!?」
「んー……良いとは思うけどごめん、あたしはどっちかっていうと金色派だから」
「あら、正直ですのね! けどそれはそれで嬉しいですの! 兜悟朗も金色が好きなのよ」
「え、そうなんだ?」
形南の行動力に引いてしまった事は正直に話せなかったが、それでも彼女の言葉に嘘の感想を口にしたくはなかった。だがそんな嶺歌の返答にも形南は嬉しそうに顔を上気させ、終始楽しそうに話しかけてくる。
しかしこれで形南の不可思議な行動に納得が出来た。形南らしくない自慢げなあの態度は、想い人である平尾の選んだ表札であるからこそのものだったのだ。それを知っていれば誰よりも平尾に夢中な形南らしい態度であると呑み込むことが出来る。
嶺歌は心底嬉しそうに笑みをこぼし続ける形南を見て、心が温かくなるのを感じる。その時だった。
「形南、こんな時間にいるとは思わなかったぞ?」
「外理様、嫌なお方に会ってしまいましたね」
「!?」
そこには嶺歌の見た事がない二人の男女が、立っていた。
第十一話『予兆』終
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