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第十二話『過去の存在』
嶺歌と形南の前に現れた男女は身長も高く見た目からして良いところの学生感を雰囲気から醸し出している。だがその見た目に削ぐわず、男の方の口調は荒々しかった。
「何だよ形南。何も言ってくれねえのか?」
「…………」
横にいる嶺歌には目もくれず、形南だけに焦点を当てた男は好意的ではない態度で彼女を見据えていた。
対して形南はいつものような天真爛漫な態度とは正反対にただ静かに彼を見つめ、黙っている。
すると男に親しげに腕を絡めた背の高い女は彼の言葉に同調するように言葉を発し始めてきた。
「まあだんまりですか? 冷たいお方ですね」
そう言って口角を上げると続けて言葉を放ち始めてくる。
「ただ財閥に生まれたというだけで他には何の魅力もないお方ですものね。お可哀想」
「蘭乃、言ってやるな。こいつは自分が可哀想な女だなんて思いたくもないだろうよ。誰もが思ってる事だけどな」
女の言葉に男は口を挟み、しかしその自身の台詞に対し何が面白いのか一人で笑い出す。男に続くように女の方も「そうですわね」と同調するとそのまま二人で楽しげに笑い始めた。
その光景を見ていた嶺歌は、あまりにも不快なその態度に自身の中からドス黒い感情が込み上げるのを感じていた。たまらず嶺歌は凄むように声を上げる。
「ちょっと」
黙ったまま彼らを睨みつける形南の前に立ちはだかるように嶺歌は前に出た。彼らはそこで初めて嶺歌という人物を認識した。
「さっきから何なの? あれなに対して失礼にも程がある」
「何だこいつは。無礼だな」
「無礼なのはお前らでしょ」
「ま、お前だなんて。何て低俗な言葉遣いなのかしら」
男と女に野次を飛ばされるも、そんなところで引く嶺歌ではなかった。嶺歌は寄り添い合う二人を睨みつけるとそのまま言葉を放ち返す。
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