第十二話『過去の存在』

2/8
前へ
/520ページ
次へ
「あんたのさっきの発言は下等生物以下だったけどね」 「なっ……!」  途端に女の方は表情を一転させ、先程の余裕な態度が覆る。嶺歌(れか)はわざとらしく両手を持ち上げ肩をすくめて見せると再び言葉を繰り出してやった。 「低俗なのはあんたも同じじゃない? 棚を上げる人間って自分勝手だよね」 「何ですのあなたはっ……!! 恥を知りなさい!!!」  女はカッとした様子で嶺歌に手を伸ばす。髪の毛でも掴んできそうなその手を嶺歌は瞬時に交わした。  魔法少女の姿でない今の状態は、身体能力が高くはなかったが、だからと言って人間の姿の嶺歌も全く動けない訳ではない。それに昔から反射神経だけは魔法少女に関係なく自信があった。  平手打ちを交わされた女は悔しげな表情を向けるとこちらを憎悪に満ちた目で睨みつけ、上品な制服に似合わない顔を顕にする。 「このっ……!」 「ていうか二対一であれなに詰め寄って、非常識だと思わないの?」  嶺歌がそう言い返してやると、今度は男の方が露骨に不機嫌な表情を見せ、口を開く。 「お前さっきから……」  そうして嶺歌より身長の高い男はこちらを見下ろしてくる。 「うぜえぞ、何様だ?」  だが嶺歌がたじろぐ事はなかった。強がりではなく、恐怖を感じないのだ。  彼の様子は一般的な女の子ならば怖がってしまうような威圧感を持ってはいるが、普段からこのような容赦のない悪人を嶺歌は魔法少女の依頼で何度も受けてきた。今嶺歌にある感情はただ一つだけである。 ――――――よくもあれなを馬鹿にしたな  この感情だけで、嶺歌は目の前にいる自分より遥かに体格の大きい男に立ち向かっていた。暫し男と睨み合い、嶺歌はとどめの一言を口にした。 「早く立ち去ってよ。あれなはあたしの大事な友達だから二度目の暴言は許さない」 「チッ下民の分際で。覚えてろ」  そう捨て台詞を吐くと男はその場を立ち去る。女はこちらに馬鹿にしたような表情を向けてから男の後に続いて消えていく。  非常識な二人の離脱に小さくため息を吐くと背後から「大丈夫で御座いますか」と兜悟朗(とうごろう)の声が聞こえてきた。どうやら城から戻ってきたらしい。  兜悟朗は普段の倍近く息が上がっており、急いでこちらに向かってきてくれた事が分かる。しかし彼はすぐに息を整え、嶺歌と形南(あれな)に「間に合わず大変申し訳御座いません」と深くお辞儀をしながら謝罪の言葉を口にした。  嶺歌は「大丈夫です!」と言葉を返し、形南の方へと目を向ける。先程から黙りこくっていた形南の様子はどう考えても普通ではなかったからだ。
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加