28人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれな、大丈夫?」
「ええ、問題ありませんの」
すると予想外に形南はすぐに返事を返してきた。言葉を失ってしまったのかと思っていた嶺歌は意表をつかれたものの、彼女の言葉に安堵する。
形南は兜悟朗にも大丈夫だと手で制し、安心した様子の彼も丁寧な一礼を返していた。
「それよりも嶺歌、有り難うですの。貴女、とっても逞しかったわ」
途端に形南はパアッと柔らかな顔を見せると嶺歌に向き合い、両手でこちらの手を握りしめてくる。嶺歌は驚きながら苦笑いをこぼした。
「嶺歌さん、お嬢様をお守り下さった事深く感謝申し上げます」
そして横からも兜悟朗が深々と頭を下げ、そんな言葉を繰り出してくる。
嶺歌はこそばゆい思いを抱きながらも「友達だし大した事はしてないです」と二人に向けて声を返した。形南があのまま酷い言葉で罵倒され続けるのは嫌だったのだ。当然の事をしたまでである。
そう思っていると形南は満面の笑みをこちらに向けながらこんな言葉を口にした。
「本当に貴女様は、私のかけがえのないお友達ですわ」
真っ直ぐな彼女の一言に嶺歌は気恥ずかしさを覚えながらも、その言葉を有り難く受け取りたいと思った。自分だけではなく、形南もそう思ってくれている事が嬉しかったのだ。
嶺歌はありがとうと声を返し、気になっていた事を尋ねてみる。
「さっきの人たち、どういう関係なの? 親しくはないよね」
嶺歌は形南の事を少しずつ知る事ができてはいるものの、彼女の交友関係については一切知らない。他の友人の話を聞いた事は今までなかったからだ。
先程の形南の様子や三人のやり取りを見るに、仲違いした友人なのだろうか。そう考えていると形南は予想もしない言葉を口にした。
「ええ全くですの。アレは元婚約者……随分前に婚約は破棄しましたけれど」
「えっ……!!?」
(婚約者……!!?)
最初のコメントを投稿しよう!