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先生はベッドの側に置いてあった丸椅子に腰をかけ、真剣な表情でカルテを記入し始める。
その横顔を眺めながら、私は息を吐くように自然と率直な気持ちを口にしてしまった。
「……私、先生と話をしていると、すごく気持ちが落ち着きます」
「えっ?」
「あっ、深い意味はなくて……。先生はいつも気持ちに寄り添ってくれるので、患者の立場としてそう思ったんです」
やや焦り気味に釈明してしまったのは、先生が一瞬だけ戸惑ったように見えたから。
誤解させてはいけない。
私は担当患者の一人として、先生を慕っているのであって、それ以上の特別な感情や下心はないのだ。
そんな不謹慎な気持ちは、あってはいけないのだ……。
それに、こんなに素敵な男性には、心に決めた相手がいるに決まっているのだからと内省していると、先生はこめかみの辺りを人差し指で掻きながら、少し照れくさそうにはにかんだ。
「……患者さんに寄り添うことは、医療従事者として当然のことです。でも、どんな立場であれ、あなたの支えになれているのであれば、僕としては本望です」
「……」
「検査の日程が決まり次第、すぐにお伝えしますね」
そう言うと、先生はペンを白衣の胸ポケットへ戻し、カルテを脇に挟んで椅子から立ち上がる。
口角を微かに緩ませた先生の耳元が、明るい陽光照らされているせいか、いつもより赤く染まっているように見えた。
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