〜prologue〜

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朦朧とする意識の中で目を覚ますと、まるで絵の具が塗られる前の、白紙のキャンバスの中にいるようだった。 窓からの陽光なのか、部屋の照明なのかは分からないが、境目のわからないくらい真っ白な壁と天井に反射する明るさに目が眩んで、思わず眉間に皺を寄せて目を閉じかけてしまう。 どうやら、随分と長く眠りについていたようだ。 頭の向きを変えようと右に少しだけ傾けてみると、モニターのようなものが置かれており、ピッピッという一定の機械音が微かに聞こえてくる。 徐々に目が慣れてくるにつれて、この無機質な空間が、病室ではないかと感じたのは、病院独特のアルコールの香りがしたからだ。 でも、私はどうして、ここにいるのだろう……。 自分の身に起きた事を思い出そうとしても、何一つ思い出せることはなく、それどころか思い出すことを脳が拒んでいるかのように、ズキズキと脈打つような頭痛に襲われる。 包帯が巻かれた腕を視界に掲げると、手のひらには擦ったような細かい傷跡が残っていて、私はもしかしたら怪我をしてここに運ばれてきたのかもしれない、と。 そんなことを漠然と考えて始めていると、誰かが何かに遠慮するように、ゆっくりと静かに扉を開くような音がした。 近づいてくる二つの足音に、私は不安と怖れを感じながらも視線を動かす。
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