〜prologue〜

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今度はきちんと言葉にして伝えてみると、それはまるでシャボン玉のように、宙に浮かんで跡形もなく消えてしまう。 後に残った僅かな沈黙の中に、馬杉先生の包み込むような柔らかい声が、溶け込むように割り込んできた。 「大丈夫です。あなたは何も悪くありませんし、自身を責める必要もありません」 「……」 「今は焦らずゆっくり、傷を回復させることに専念していきましょう」 事故にあったという事実も、その時の記憶を思い出せないという現実も、人の手を借りないと何一つできない今の状況も、自分を精神的に追い詰める要因にしかならない中で、先生の前向きな言葉だけが、私の傷を癒すように優しく寄り添ってくれる。 初めて会ったばかりの人なのに、私はこんなに心を委ねてしまってもいいのだろうか……。 でも、それほどまでに今の自分には、他に頼れるべき存在がいなかった。 「汐見さんの容体が少しでも早く良くなるように、私も尽力していきますから。一緒に頑張っていきましょうね」 「……はい」 たった二文字の返事をしただけなのに、先生は私の気持ちをしっかりと受け止めるかのように、真剣な目をして浅く頷く。 医師として当然の責務だとしても、一人で起き上がることもできない無力な私にとって、その言葉がどれ程の救いになっただろうか。 目尻からゆっくりと伝って流れ落ちた滴は、真っ白な枕カバーに水玉模様の涙の跡を幾つも残した。
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