光の花

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光の花

 なんであんなことOKしたんだろうって後悔が、怒涛の如く俺を苛む。  金?  ああ。  そうだよ。  金だ。  明るい未来と成功を夢見て出てきた俺は、今、孤独と後悔を胸に、ここを去る。  挫折とか。借金とか。  そんなもんじゃ、心はここまで寒々しくなりはしなかったのに───。  ただ唯一の人に望まれる。  富や名声に比べればそれはあんまりにも地味だけど。金じゃ買えないそれを、金と引き替えに俺は……。  ヒュルル、と。  夜空をかけ昇る光が、明るい花を咲かせた。  目を、奪われる。  でもそれは一瞬。  白くたゆたう煙を残して、闇に消えてしまうんだ。  それは。  俺?  それとも。  俺の、心?  それとも───あいつか。        愛しげに這わされる指も、唇も。   それは俺に与えられたものじゃない。  それでいいと。  思ったんだ。  セックスなんて、誰とやっても、そう大差ないと思ってた。  擦るとか。  挿れるとか。  出すとか。  そういう流れの順番にそれなりの差異はあっても。  要は、同じようなもんだって。  思ってたんだ。  なのに。  回される手に。  欲しがられることに。  感じてくれてることに。  歓びをおぼえて───果てる、なんて。  そしてそれが。  俺に向けてのものじゃないことなんて。  わかってたのに。  わかってたけど。  それはあんまりにも残酷な。  初めての、失恋だった。      なんども夜空を彩る花みたいに。  俺もこれから花を咲かせることができるだろうか。  あいつの声を。手を。熱を、忘れて。  たった一度の夜。  あいつにとっては、気の迷い。  俺にとっては───それは過ち。   本来ならありえなかった出会い。  でも。  出会ってしまった。  なんで?  ありえないままじゃ、いけなかったのかよ。  なんで俺は……。  まだあいつの名残を感じる身体の奥に、空へ飛び立つ光の振動が響く。  それが花を咲かせる前に。  俺は空から視線を逸らした。        喧騒の中。  浮かび上がるように、そこに立っていたその人物に、ふと、目を奪われた。  花のように美しい姿。  聖なる夜に寄こされた天使なんじゃないかって思うほどの、性別を超越した、研ぎ澄まされた美貌の人。  ツッと。  光の粒がその白い頬を転がった。  花を咲かせる前の光のようなそれは。  暗闇に吸い込まれ、花開くことはなかったから。  その後も絶えず転がり落ちるそれは、宝石なのかもしれない。  悲しくも美しい、宝石。  一段と大きな音が響き、その人の頬が花の色の照らされたとき。  カクンと。  まるで花が手折られたように、その首が落ちた。  身を包んだ黒いモッズコートごと自分を抱き締めるようにして肩を揺らすその人は。  幻のように。  喧騒の中に消えていった。       それは。  幻だったのかもしれない。  あいつを忘れようとする俺の気持ちを。  せめて、その美しい姿で。      さよなら。  俺は、孤独と後悔を胸に、ここを去る。  でも。  あんたにもらった花の種を。  いつか。  また。  どこかの空に咲かせてみせる。  それまで。  あんたの知らないどっかで。  俺は。        あんたを。  想ってるよ。 
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