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  日本政府の負債、遂に1京円を突破!  毎年変わらない白夜に近い6月のある朝。  北欧に所在する架空の国・サムイランドに住む、ごく普通の中年男性ユハニ・アホネンは、新聞記事をしげしげと眺める。 (ふぅむ…日本政府の負債が今現在、天文学的な数字に膨れ上がっているのか…)  ユハニ氏はサムイランドの、平均的なマジョリティ民族(サムイ人)出身である。彼の生まれたサムイランドは、高福祉国家として知られており、世界中から性差のバリアフリー・子どもの教育費の政府負担・失業者の職業訓練費の給付・老後の高年金・生活保護の捕捉率の高さetc.の政策が羨望されている。それ故に、母国で迫害されているマイノリティ民族が難民としてこの国に亡命することも珍しくなく、そしてそのことが、軋轢を生むこともしばしば見受けられているのであった。つまり、移民・難民に対するヘイトスピーチ・ヘイトクライムに、この国は悩まされているのである。  彼の住む町は、ごく最近まで少数民族・スオモイ人の暮らすシータ(スオモイ人の伝統的なコミュニティ)であった。しかし、10年前にこの地に巨大な家具販売・卸売店AKIEが進出し、それに伴い中小から零細に至るまでの家具やホームセンターの店舗が続々と開業して、今や北極圏に位置するこの町の人口は、10000人を突破する勢いである。  そしてユハニ氏もまた、勤めていたAKIEサムイランド支店のオフィスから出向という形で、家族ともどもこの町に移住したのである。現在、彼はこの町のAKIEの幹部スタッフとして、日々を忙しなく過ごしている。  そんなある日、彼は町に日本人の一家が引っ越してくるとの噂を聞いた。風の便りによると、その一家は日本の自分たちの権益しか考えない、国民の福祉よりも原発を増やして軍備を増強し、排外主義を放置・静観するならまだしも、それを自ら煽動して自分たちの腐敗ぶりを誤魔化す政府に、愛想が尽きたのだという。  そしてその「日本人の一家」が、まさか自分たちのマンションの隣室に引っ越してくるとは、この時のユハニは及びもつかなかった。そして後に、日本人(ヤポニライネン)の「底知れぬ恐ろしさとおぞましさ」を知ることになろうとも…。
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