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 ちょうど夏至の日を迎える6月半ば過ぎ。この日、ユハニ氏は「折角の夏至の日だから」という理由で有給休暇を取得して、リビングのソファで昼寝をしていた。 そんな昼下がりの時間帯に…。   ピンポ~ン (誰だろう?折角ソファに寝そべって昼寝をしていたというのに…)  妻と娘と息子は、只今近くの大きな町まで買い物に出かけている。しかしユハニ氏は、外出するよりも昼寝の方が好きなので、本日は留守番として自宅マンションに留まっていたのであった。  ともあれ、彼は「よっこらしょ」と起き出して玄関へと向かう。   ガチャ 「ハジメマーシテ!ワターシ、ヤポニライネンノー、ホラ・ゴクーヴトー、モウシマース!!」  ドアの外にいたのは、背丈が160センチほどしかない、ちんちくりんのアジア人であった。そのアジア人は、いきなり片言のサムイ語にてユハニに挨拶をしてきたので、彼も面食らう。 「あ…は、初めまして…」  突然アジア人に挨拶されるという、どう対応するのか判らぬシチュエーションに出くわしたわけなので、ユハニ氏もしどろもどろに。しかし、いきなり話しかけた「ホラ・ゴクーヴさん」とやらは、そんな彼のことなどお構いなしにペラペラと稚拙なサムイ語で話し出す。 「ワタシターチ、カゾクトモドーモ、ニッポンカーラ、サムイランドーニ、イジューシテキマシータ。ドーモコレカーラ、ヨロシクオネガイシマース!!イマ、ニッポン、ハイガイシュギトー、セージノフハーイ、ソレニコクミンヲー、ナイガシロニシーテ、ボーエーヒゾーガクトー、ゲンパツノー、シンセーツノタメーノー、ゾーゼー、カルトーシューキョーノー、バッコ、イチブーノー、ダイキギョーニヨルー、サクシュ、ソンナコトーガー、マカリトーッテイマース。ワターシタチ、モウソンナー、ニッポンニーハ、アイソーガツキマーシタ。アンナオロカーデ、コクミンノコトナンカー、カンガエナイー、セージカシカイナーイー、クニナンーテ、ホロビーテシマエバー、イーノデース!!」 …何やらよく分からないが、彼は日本の現状に不満があり、それで家族ともどもサムイランドに移住した、と言いたいようである。  ともあれ、ユハニ氏は突然現れた日本人「ゴクーヴさん」に面くらいながらも、コチラの方からも挨拶をする。 「ど、どうも…。私はこのマンションに暮らすユハニ・アホネンと申します。今後とも…」 「ワッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!」  彼がそう言いかけた途端、ゴクーヴさんは突然ゲラゲラと大爆笑をする。狂ったように笑い出した彼を見て、ユハニ氏は一瞬「ギョッ」とする。そしてひとしきり笑った後に、目の前の日本人はこのように言い出した。 「ニッポンノー、カンサイトユー、チホーデーハ、バカノコトヲー『アホ』トイーマース!!アナターノナマーエ、トテモユニークデース!!ワターシノホーモ、アナターノコトヲー、シタシミヲコメーテ『アホ=サン』トー、ヨビマース!!」  いきなり人をバカ呼ばわりするゴクーヴさんの無神経ぶりに対して、ユハニ氏は怒りを通り越して恐ろしくなる。  ともあれ、ゴクーヴさんは自身の歓迎バーベキューパーティーを申し出る。 「アホ=サン、ワターシタチ、ホライッカーノ、カンゲーイバーベキューパーティーヲー、ヒラーキマース!スデーニ、マンションノー5カゾークニー、コエヲー、カケテイマース!!アホ=サンモー、ワターシタチトー、イッショーニー、タノシーミマショー!!!」 「そ、そうですね…。私も楽しみにします…」  いきなり隣人となった不気味な日本人に、ユハニ氏は当たり障りのない返答をする。  そうこうする裡に、彼の家族らしき壮年の女性と息子と娘らしい子どもがマンションの階段を上ってやってきた。 「!*‘%$+=~」 「¥@:&#」 「?¥“=~<>¥」 「=¥:*@$&^|」 「¥#<@@&%$+¥?」 「|¥=&%$#+**<>」  ユハニ氏には日本語が解せないので、彼ら彼女らが何を話しているのかは判然としない。只、いきなり日本の親しい友達から無理やり引き離されて、サムイランドに引っ越すこととなった姉と弟らしき子どもたちは、両親に対して不服そうな感じではあった。  それを見て、ユハニ氏はやりきれない思いに取りつかれる。何しろ、子どもには子どもの社会があるというのに、親の身勝手さで強引に自分たちの気の置けない友人たちから引き離されたのである。  その晩、ゴクーヴさん一家は、引っ越し荷物として真っ先に日本名物である機器「カラオケ」を持ち込んでいたらしく、ユハニ氏は隣室で開催された夜遅くまでの歌謡パーティーにより、ほとんど一睡もできなかった。
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