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大聖堂の屋根の上
ーーまたこの日が来た。1年で1番急がしい日。
古い大聖堂の高い屋根上に座りこみ、この街を眺めていた。
レイラは、悩んだ時にいつも大聖堂の屋根上に行く。
この街で1番天に近い……両親の近い場所に行く事で心が少し穏やかになるからだ。
海に近いこの古い街並みは、家の屋根は全てオレンジ色で白い外壁の家が立ち並ぶ。白いコンクリートの間にはバランスよく緑が繁り、海の濃い青とのコントラストがとても美しい街なみだった。
今日はクリスマスイブでもあり、華やかに飾られた大きなクリスマスツリーが街を一段と華やかに彩る。
人の楽しそうに笑う声や音楽がどんなに遠い所にいても聞こえてきそうだ。
ーー世界で私だけが不幸せなのかもしれない。
この素晴らしい街並みを見ながら私はそう思った。
世の中には沢山の人がいて、そんな訳ないことくらいは頭では理解できている。たが、悩みを抱えるとそう思わずにはいられないのが悲観的思考だ。
私は細身の身体に赤い色のミニワンピースを着て黒いタイツを履き、頭には赤い三角の帽子を被る。
スカートの端や帽子の端についている白いワタのような毛長いファーが風で小さく揺れる。
肩につくセミロングの金色の髪には、とても赤が映えた。
そう私はサンタクロースにふんした魔法使いだ。
サンタクロースは存在しないが、魔法使いは存在する。魔法使いは、人間界に住んでいて人間の社会で生きている。
私も仕事は図書館司書であり、クリスマスの時だけサンタ業という魔法界の仕事を請け負っていた。
魔法使いは、クリスマスには皆んなに幸せを運ぶ仕事がある。目に見えないプレゼントをしている。
おもちゃなどのプレゼントなどは渡せないが、事故から守ったり、出会いをプレゼントしたりと細やかな人生の幸せのお手伝い程度だが行うように魔法学校で教育された。
始めはこのサンタクロース業は素晴らしいと感動したし、この仕事が楽しくて仕方なかった。仕事にやりがいも感じ達成感に浸っていた。
それが何年もこの仕事をするうちに達成感よりも、何だか心が満たされない気持ちの方が段々大きくなってきていた。
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