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「そういえば、3年前に行った植物園にまた行きたいのですが一緒に行けますか?」
「え?」
「あの時エリク様がお気に召された多肉植物が私も気に入ってしまい、調べてしまいましたわ」
「あ、ああ……あの植物園だね。もう一度行けるように母上に相談してみるよ」
「ええ、よろしくお願いします」
私はこの世界で実際に生きた一年の間でも、さらに架空の18年の記憶の中でも植物園なんて一度も行ったことがない。
適当に嘘をついた? それともやはりエリク様も記憶の改ざんに関わっている?
私はフレーバーティーを一口飲むと、エリク様の額に汗がにじんでいるのがわかった。
よく思い出せば、婚約者なのにこの一年でエリク様とデートをしたのは5回ほど。
それにおかしい点はいくつもある。
公務と言いながら出て行く時間が極端に遅い時間だったり、朝王宮に戻ったりしているのを何度も見かけた。
服装は貴族らしい綺麗な身なりの時もあれば、ある日は庶民のような格好をしたのを目にしたこともある。
典型的な浮気の気配が漂っており、私はそこから切り崩せないかと思案して次の質問をする。
「エリク様、今日は甘いストロベリーの香りがいたしますわね」
「フレーバーティーだからかな?」
「いいえ、エリク様のお召し物からですわ」
「──っ!」
私は冷たい目でエリク様をじっと見つめると目をきょろきょろと泳がせた後、テーブルに額をつける勢いで謝り始めた。
「すまないっ! 彼女とはまだ二度しか会ってない! 遊びのつもりだ。許してくれっ!」
急に謝り、勝手に浮気を白状し出したところでこの人の器と頭のレベルが知れている。
「君が一番なんだ。聖女の清らかさを持った君こそが私に相応しく、そして美しい」
その言葉からは「聖女」という私しか見ていないことが開け透けて見えており、私は呆れてものも言えなかった。
結局この人も私自身を愛そうとはしていなくて、母親の王妃の言いなりで「聖女」の私を利用しているのね。
エリク様が最近男爵家の美しい令嬢に身を焦がしているのをじいじが調べてユリウス様伝いに聞いていたけれど、やはり本当だったのね。
ストロベリーの香りが好きと情報を仕入れてカマをかけてみたけど、まあ浮気していたんでしょうね。
記憶を思い出した以上心から彼を愛してはいないけれど、それでも裏切られたという気持ちはあって胸が痛む。
「エリク様。顔をあげてくださいませ」
その声にエリク様はゆっくりと顔を上げて私を見る。
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