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「さむっ!」
外はかなり寒くなってきており、風がほっぺにあたって痛い。
そんな心の叫びを聞いていたのか後ろから声をかけられた。
「リーディア?」
振り返るとそこにはユリウスがおり、彼もいつもと違って少しラフな格好をしていた。
「ユリウス様っ!」
「寒い中どうしたんですか、こんなところで」
「いえ、その。この木を見ていると懐かしくなって……」
そう言いながら私は微かに残る秋の葉っぱが揺れるのを眺めていた。
「ここは私のお気に入りの場所で、この木を見るとなんだか落ち着くのです」
そっと木の幹に触れると、目を閉じてユリウス様は語り始めた。
「この木は『聖樹』と呼ばれる王家の宝の一つです。初代の聖女が植えた神々しい木で、名前を“サクラ”というそうです」
「えっ?」
サクラってあの『桜』?
「サクラはこの国でよくある木ですか?」
「いいえ、この国どころか、この世界には他にない唯一無二の木らしいです」
「──っ!」
それってこの木が聖女によって植えられた……つまり現代から持ち込まれたものの可能性がある?
「その“サクラ”はもしかして春に淡いピンクの小さな花を咲かせますか?」
「おや、リーディア。よくご存じですね、聖女様だからでしょうか」
やっぱりっ!
間違いない。これは現代と同じ桜の木だ。ということは、聖女はもしかして同じ現代からやってきた人間?
いきなりの転移で桜の木を持ってるわけないから、一度現代に戻ってまた来た?
もしかして行き来できたんじゃない……?!
「どうしましたか、リーディア」
「いえ、ユリウス様。その、恥ずかしいのですが、ホームシックになっていたようでして」
「ほーむしっく?」
「家や母が恋しくなったのです。記憶を取り戻してもうすぐ一ヶ月。私は帰れるのだろうか、って」
私がだんだん俯きがちに話していると、ユリウス様の足音が近づいてきてそして私の前で止まる。
すると、私の頭を撫でてそれから急に私を優しく抱きしめた。
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