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第8話 さて、覚悟はいいか
──ある晴れた日、王妃は我が物顔で謁見の間の玉座に腰かけると、優雅に扇をはためかせて言った。
「あら、リーディアちゃん。サロンやお庭じゃなくてわざわざ謁見の間でお話したいことって何かしら? まさかっ! エリクとの結婚宣言の式典の日取りを早めてほしいとか?! やだあ~もうそんなにエリクのことが好きなの~?」
「エリク様には先にお伝えしたのですが」
「まあっ! じゃあやっぱり結婚宣言のしき……」
「エリク様は泣いて私にすがりつきましたよ」
「──っ?」
「第一王子エリク・ル・スタリー様との婚約を破棄させていただきたくお願いにあがりました」
「──っ! あなた、まさか……」
王妃が私を見る目が変わり、一気にその顔は化けの皮がはがれたように凄みを増した表情になる。
「あなたを母と慕う予定はありませんし、両親が亡くなって引き取っていただいた恩を感じることもありません。なぜなら、そんな両親端からいませんから」
「──っ!」
「私の母は政子(まさこ)ただ一人なのよっ! 肉じゃがもカレーも豚肉で作る節約家、でもそれがいいうま味を出すことを知っている! パンツに穴が開いても、靴下に穴が開いても履き続ける!」
「あなた何を言っているの?」
「でもそんな母は毎日遅くまで働きながらそれでも朝早く起きてお弁当を作って送り出してくれた、優しい母だった。そんな優しい母が私は好きだった。それをあなたはなんの理もなしに奪ったのよっ!!!」
私は息を切らせながら目には涙を浮かべて王妃に母──政子への愛を誓った。
突然の母と離れなければならなかった、この苦しみがお前にわかるのかっ!!
「エリク様は白状しましたよ。あなたが王宮魔術師に聖女召喚の儀式をおこなわせて私を召喚したこと。そして、第一王位継承権を得るために私を婚約者として、そしてこの世界で18年生きてきたという偽りの記憶を植え付けたこと」
「なっ! エリク……あのバカ息子……」
「あの人は私を少しも愛していなかった……」
私は言っていて悲しくなるが、ぐっとこらえる。
「息子の教育が甘かったですね、王妃」
「──っ! ユリウス王子」
私の後ろにある柱からそっと姿を現したのは第二王子であるユリウス様だった。
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