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第12話 お忍びデートは甘く切なく
「ユリエ、デートをしませんか?」
「へ……?」
思わず私はユリウス様の綺麗なお顔を見つめながら情けない声を出してしまった。
それは、婚約したからそういう仲でまわりは見るのだけれど、でも、その……いきなりというかなんというか……。
と言いながら私は顔を真っ赤にしてもじもじとする。
すると、私の手を取ると、眩い笑顔で玄関の方へと私を連れて行く。
「あなたを自由にするとサクラの下で約束をしました。だから王宮の外に出て遊びましょう」
「いいのですか?」
「もちろん、この格好では目立つので少し着替えていただきますが……」
こうしてユリウス様と私はお忍びデートをすることになった。
◇◆◇
馬車が市場の近くに到着すると、私の目の前には見たこともない活気のある街の景色が広がっていた。
「わあ~すごい」
「ここは普段は民衆たちの憩いの場になっていますが、休日にはマーケットと呼ばれる市場が開かれます。そこでは──」
ユリウス様が説明をしてくださっていた気がするけど、私はもう街の凄さと久々の解放感に圧倒されていた。
絵本や漫画で見た世界のような素敵な街並みで、石畳の地面に建物はレンガをメインに作られている。
それにみんな可愛い民族衣装のような服を着ている。
「ママ~待って~」
はあ~! 子供たちの服もフリフリで可愛い~!!
なんて素敵な街! そして国なの?!
「気に入ってくれたようですね」
「はいっ!」
「あそこのテラスで紅茶でもいかがですか?」
「ぜひっ!」
そう言って二人で店主の人に紅茶をお願いする。
すると、店主がユリウス様にこそっと耳打ちした。
「久々じゃないか、坊ちゃん」
「その呼び方はやめてください」
「今日も抜け出してきたのか?」
「はい、今日は彼女を連れて」
「ほお? ついに婚約者でもできたか?!」
「え、その──」
ユリウス様は少し顔を赤らめると、からかわないでくださいと言い残して私をテラスへと案内する。
「ここはやはり落ち着きます」
「はい、海も見えてとても綺麗ですね」
紅茶を一口飲むと、心地よい風に乗って紅茶の香りもふわりと漂う。
「昔から母上と王宮を抜け出してはここで紅茶を飲んでいたんです」
「あ、だからさっき坊ちゃんって」
「その呼び方はやめてください。僕はその、もう坊ちゃんではなく一人の男だ」
「あっ! なんかその雰囲気いいですね」
「え?」
「なんというか、いつも敬語だったのでなんとなく距離があったんです」
「けいご?」
「あー、えっと。丁寧でその気を遣われているといいますか……」
「ふふ」
ユリウス様はいつもよりなんだか砕けた表情で私を見つめて言う。
「わかった。君はもう婚約者だからね。どうだい? 僕をもっと意識してくれるかい?」
「──っ!」
急に大人の男といった感じの雰囲気や色気が漂って、私の頬が熱くなるのを感じる。
「効果あったみたいだね」
「破壊力抜群です……」
「あはは」
そうしてお皿に乗ったドーナツのような丸い穴が開いたケーキを食べる。
「これ、うちの母もよく作ってくれたんですけど、なんていう名前ですか?」
「これかい? バーボフカだよ」
「ばーぼふか?」
「この国でよく作られているお菓子なんだ」
「美味しいですね! うちの母のはもう少し甘さ控えめでした」
「そうか、私も母上も甘さ控えめのが好きでね、よくメイド長に作ってもらっていたんだ」
「へえ~今度作ってみたいな~」
「僕にもくれるかい?」
眩しい笑顔で懇願されると、断れるわけない……。
もちろん、ユリウス様にも食べていただきたいな。うまくできたらだけど。
ユリウス様はテーブルに頬杖をついて私にぐっと近寄った。
「僕はね、君と婚約できて本当に嬉しいよ。夢みたいだ」
「はいっ! 私もです」
「でも、君が元の世界やお母上を思う気持ちもわかる」
「……」
「だから、僕としては君を返したくないけれど、元の世界に戻れる方法を僕の一生をかけて探すよ」
正直、この淡い恋心とお母さんに会ってぎゅってしたい気持ちと両方が混ざってる。
好きに行き来できるようになったらいいのにな、なんて今は思ってる。甘い考えだろうけど。
でも、確かに今私は目の前にいるこのサファイアブルーの瞳が輝く彼に心惹かれていて、傍にいたいと思うのも事実。だから……。
「ありがとうございます。私もあなたの傍になるべくいたいんです」
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