第13話 王宮へ忍び寄る影

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第13話 王宮へ忍び寄る影

 私がユリウス様と婚約した半月後、ユリウス様は正式に王太子となり次期国王となることが決まった。  このことは隣国を含めて各国に知れ渡ることとなり、クリシュト国は「これからも安泰だ」という評判がついた。  一方、私の聖女召喚を含めた元王妃であるアンジェラ様の所業が隣国のスパイの手引きがあったことを知り、王宮内には緊張が走っていた。  そのことについて私を含めた、ユリウス様、国王、そしてユリウス様の側近でいらっしゃるアルベルト様が謁見の間で話しあっていた。  すると、ユリウス様は私のほうを見て一瞬微笑むと、アルベルト様を私に紹介する。 「ユリエ、会うのははじめてだったね。この者はアルベルトという。私の側近で密偵なども兼ねている」 「アルベルトでございます。よろしくお願いいたします」 「アルベルト様、はじめまして。ユリエと申します」  深い青色の髪色にサファイアのような美しい瞳、そして長いまつ毛に私は息を飲んだ。  ユリウス様も王子様らしく見目麗しいけど、彼もまた違った品格の良さがあって、そして何よりユリウス様への敬意を感じられる。  そしてユリウス様もまたアルベルト様のことをホントに信頼してることがわかる。  挨拶が終わったところで、ユリウス様は国王に対して報告をはじめた。 「父上、先日申しました通りやはり隣国コーデリア国は何か企んでいる様子です」 「ああ、こちらでも確認した。アルベルト、コーデリア国の民衆の様子は?」 「はい、民衆はいつも通りの生活を送っております。ただ、民衆は自国の他国侵略を良く思っていないようで、侵略反対を掲げて王宮へと訴える者もいるようです」 「やはり、かなり暴走気味のようだな。以前はここまで無茶することはなかったが……」 「引き続き、アルベルトには密偵でコーデリア国に潜伏してもらおうと思いますが、いかがいたしましょうか」 「ああ、頼む。ただ、危険だと感じたらすぐに戻ってこい。いいな?」 「かしこまりました」  アルベルト様は国王に跪き、胸の前に手を当てて頭を下げると、立ち上がってそのまま退室した。  残った国王は深く腰掛けて座りなおすと、ひじ掛けに手を置いてふうと息を吐く。 「何が起こってるんだ」 「叔母上のことも心配です。アルベルトにも探ってはもらっていますが、なぜか消息がつかめません」 「わかった。何かわかればすぐに連絡をしてくれ」 「かしこまりました」  すると、国王は優しい顔つきになったあと、私に向かって話し始める。 「ユリエ、王宮での暮らしで不自由はないか?」 「あ、はいっ! 皆様によくしていただいております!」 「そうか、何かあればすぐにユリウスに言っていいからな」 「ありがとうございます!」  隣にいたユリウス様も私の方を向くと、「遠慮なく言ってほしい」と私に告げた。 ◇◆◇  謁見が終わると、私はユリウス様とお茶をするために彼の自室へと招かれていた。  綺麗な模様のテーブルクロスの上にゆっくりと、紅茶とアフタヌーンティーのセットが置かれる。  アフタヌーンティー自体は記憶の改ざんをされたときに嫌というほど王妃様としていたのでそのセットの豪華さは知っているが、改めてみると元の世界の私には縁のないもので少し構えてしまう。  そんな構えた様子に気づいてか、私の目の前に座るユリウス様がにこりと笑いかけてくれる。 「ユリエ、どうかそんなに身構えないでほしい。一緒にお茶したいだけなんだ」 「はい。でもやっぱりケーキにサンドウィッチ……豪華だなって」 「アフタヌーンティーは嫌かい?」  ユリウス様は少し眉を下げて顔を傾けると、私の顔色を窺うように見つめてくる。 「い、いえっ! 違うんですっ!! 私にはもったいないほどの豪華さで!! その、幸せです!!」  自分でもなんとも語彙力のない、そして品のない回答をしたと反省したが、ユリウス様は私の回答を聞くとほっとしたように笑う。 「よかった、じゃあぜひ僕と一緒にアフタヌーンティーデートをしてほしい」 「は、はい」  ほら、こんなふうに急に男の人の顔つきになって私を誘惑してくる。  サファイアよりも濃いタンザナイトのような瞳が私を捕らえてしまって、思わず照れて顔を赤くしてしまう。 「ユリエ、私はあなたが好きです」 「ほえ?!」  ケーキを口にしていた私に向かって突然愛の告白をするユリウス様。  その顔は日の光が当たってキラキラと輝いて、まさに王子様だった。  私はケーキをポトリとお皿に落としてしまって、愛の告白に口をパクパクさせる。 「ユリウス様っ! イレナもいますし、その……」  そんな私付きのメイドであるイレナは私は邪魔してませんよ、とばかりにそっと顔を軽く背けて涼しい顔をしている。 「私のことが嫌いかい?」  子犬のように縋る目で見つめられると、なんとも心が痛む。  私は勇気を振り絞って、ユリウス様に言葉を紡ぐ。 「わ、私も……その……ユリウス様が好きです」 「よかった」  私の言葉を聞くと満足そうに、それはなんとも嬉しそうに無邪気に微笑むと、紅茶を一口召し上がった。  しばらくはまだこのこそばゆい感じ、なんていうのかその、付き合いたてのカップル?みたいなふわふわした気持ちが続くのかと思うと、私は気恥ずかしさもあり嬉しくも思った。  ユリウス様とのアフタヌーンティーを終えてイレナと廊下を歩いていると、彼女が私に話しかける。 「この後私は街に買い出しに出ますので、ユリエ様はどうぞごゆっくりお部屋でお過ごしください」 「え? 街に? それ、私も行っていい??」  ユリウス様と街に出てからこの国の風土がとても好きで、何度かイレナの買い出しについて行っていた。  私はいつも通りイレナに外出の支度を手伝ってもらうと、二人で馬車に乗って街に出た。 ◇◆◇ 「はあ~! やっぱりこの街の雰囲気好き!」 「そうですか、気に入っていただけて何よりです」  イレナの淡いピンクの髪は日の光を浴びて艶めかしく輝く。  そんな彼女の薄いブラウンの瞳はどこか私とも似ていて、親近感がわいて安心する。 「ユリエ様、あまり離れないでくださいね」 「わかってる!」  私は久々の街の空気に酔いしれていた。  だからかもしれない、あまりにもこの時の私は無防備だった。 「ねえ、イレナ! この髪飾りって……──っ!!!!」  私は突然後ろから口元に布を当てられて、身体を拘束される。  声にならない声がイレナと叫ぶが、その声は届かない。  何これ、何この変な匂い……え? 視力悪くなった? イレナの姿が……見えな……い。  私はそのまま力が抜けて意識を手放した──  目が覚めた時、私はベッドにいた。  夢? 私寝ちゃってたの?  でも、そのベッドの香りがいつもと違うことに気づき、自分に何が起こっているのかわからなかった。 「やっと目が覚めたか」 「──っ!」  気が付くと、ベッドの横にはがっしりとした体格でアルベルトとは違う肩まで伸びた青い色の髪が目に付く男がいた。  彼の藤色、いやもっと濃いアメジストのような瞳が近づいてきて、細く大きい手が私の顎を捕らえる。 「聖女様、俺の女になれ」  私はまた何かに巻き込まれたらしい……。
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