第16話 虐げられた聖女

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第16話 虐げられた聖女

 あのーさすがに視線が痛いんですけど……。  「第一王子の懇意にしてる女」ということで王宮内を自由に動けるようになったけど、それにしても視線が痛い。 「なんでレオ様はあんな『聖女』なんか」 「やだ……。なんで私の憧れのレオ様があんな貧相で女の色気のかけらもなさそうなやつを」  おい、聞こえてるぞ。  うっかりちょっと口悪くなるくらいひどい扱い、言われようにさすがに居心地が悪い。  とりあえず書庫室がないか探さないと……。 「うわっ!」 「なにをするのですか! 全くっ! あなたみたいな『聖女』の小娘がわたくしに触れるだけでも……ああっ! 汚らわしい!!」  明らかに偉そうな宰相っぽい人に肩をあてられて暴言を吐かれる。  なに、このクリシュト国との扱いの違いは。  やっぱり『聖女』が奪われたことが許せないんじゃなくて、『聖女』そのものが憎いの? 「まったく、伝承の通りやはりまた裏切ったんでしょうな。今度はクリシュト国を裏切って我らに乗り換えるとは、あさましい」 「ち、ちがいます!」  やっぱり『聖女』そのものがみんな憎いんだ。  こうして彼と話しているときも、遠巻きにみんなひそひそと話しながら私に視線を向ける。  その視線はとても歓迎するようなムードではない。  結構精神的に堪えるかも……。 「皆、それ以上言うと俺が許さない」 「レ、レオ様!」  廊下にいた者もそして大階段の広間にいた者も、皆揃って跪く。  曲がりなりにもやっぱり彼はこの国の第一王子なんだと気づかされる。  すると、突然私の視界がぐらっと揺れて気づいたら彼の腕の中にいた。 「なっ!」  彼に肩を抱かれる感じでしっかりホールドされている状況に、これまたなんとも居心地が悪く感じる。 「皆控えろ! 『聖女』は確かに裏切者かもしれない。だがこいつは違う」  なんだ、かばってくれるいいところが……。 「こいつは未来の妃だぞ!」  は……?  その言葉に皆広間中がざわざわとしてレオに口々に問いかける。 「レオ様! それは真実でございますか?!」 「ああ」 「未来の妃ということは、つまりレオ様とご婚約なさったと」 「ああ」  嘘言いなさいっ!!!  そこまで許可した覚えはないわよ!!!  私は抗議の意味を含めてレオのほうを見るが、彼はにやりと笑うだけ。 「レオ様、私は婚約はまだ……」 「いいだろ? どうせ遅かれ早かれそうなるからな」  どうやら彼の中私の負けは確定しているらしい。  そう思ったら耳元で彼に囁かれる。 「国王にはまだ正式な婚約ではないことは伝えてある。安心しろ」 「でも、皆さんが……」 「これだけ俺が言えばある程度の王宮の人間がお前に危害など加えることはないだろう。王族に不満を持つ者も大っぴらには動かないだろうしな」 「レオ様……」  そこまで考えていて言ってくれたの?  まあ、かなり強引なんだけども……。  じっと彼の顔を見つめてしまっていたために、がしっと顔を掴まれて顔を近づけられる。 「もしかしてもう惚れた?」 「──っ! 惚れてません!!」  私はそのまま彼の手を払いのけて廊下をぷんすかしながら歩く。 ◇◆◇  レオの言葉が効いたのか、王宮では陰口もほとんど言われなくなったし過ごしやすくなった。  それよりもなんだか王宮の外が騒がしいような気がして、私はそっちのほうが気になっていた。 「ディアナ?」 「なんでしょうか、ユリエ様」  相変わらず可愛らしいお人形さんのような幼い見た目の彼女は、私にメイド服の裾をもってちょこんと挨拶をする。 「外がなんだか騒がしい気がするんですが、今日は何かの日ですか?」 「今日は『魔法祭』でございます」 「まほうまつり?」 「はい、この国の魔法に関する歴史を忘れないようにするための一年に一度のお祭りです」  なにそれ、もしかしたらお祭りだからヒントはないかもだけど、何かあるかも? 「ありがとうございます」  私はその足でこっそりと街へ出てみることにした。  王宮の外への許可はもらってないから、カーテンを使って窓から降りてそこから変装して門を通って出た。  王宮をうまく出て街に差し掛かったところで、何人かの男たちに囲まれた。 「その髪と目の色……まさか伝承の聖女様じゃないか?」 「ああ、『裏切者』の聖女様だ!」  まさか、街の外でも聖女は歓迎されないの?!  私はひとまず彼らから逃げようとするが、男の一人に腕をねじるように強く掴まれる。 「いたっ!」  すると、騒ぎを聞きつけた人々がやってきて私に石やゴミを投げつける。 「聖女なんかいなくなれ!」 「お前のせいで魔法はなくなったんだ!」  まずい……。  これだけの人数から逃げられる方法は何かない?!  まわりを見渡しても人、人、人。  道の真ん中だから何もないし、元来た道も隠れる場所なんてないし……。 「──っ!」  目のあたりにあたった石で傷ついたのか、目尻と頬に血が流れる。  どうしよう、走って逃げるしか……。 「やめろ」  考えを巡らせる私の耳に低い声が届くと、急に優しく抱き寄せられた。  私はその感触に覚えがあった── 「レオ……様……」
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