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第18話 真夜中の訪問者
レオと一緒にコーデリア魔法祭に行ったその夜、私は彼に与えられた寝室のベッドに座って今日のことを思い出していた。
最初の印象はわがままな王子そのものっていう感じだったけど、なんだか今日までの様子を見て印象が変わってきている。
聖女だからと私に害をなそうという王宮のひと達や民衆から私をかばってくれたり、ディアナ伝いで私の好きなものを知ってくれてたり。
彼の真意がわからない、本当はいい人なの?
そこまで考えて私ははっとして首を横に何度もふる。
いやいや、それこそレオの思うつぼよ!
今日はもう寝よう、歩き回って意外にも足にきてる。
あれ? 私そんな歳だっけ?
そう思いながらゆっくりとシーツに潜り込んで目を閉じる。
なかなか眠れないで頭の中はぐるぐると同じことを考えてしまっていた。
そう、私ってなんなんだろう。
聖女なのになにもできない。なんの力もない。どうやったらその力とやらを発現できるのか、そもそも私にそんな力があるのか。
名ばかりの聖女で、ただの異世界から来た人間というちょっと特殊なやつってだけじゃない?
そんな風に考えているとふとユリウス様と話したある日のことを思い出した──
『ユリエ』
『なに? ユリウス様』
『前にあなたは私にどうして自分を信じてくれたのかって聞きましたね』
『ええ』
『もちろんあなたの行動や調査の手がかりで確信した部分もありますが、何よりあなたの目が助けを求めていた。だから私は何が何でも助けたいと思いました』
あの時の光景を思い出しながら、そっと私は目を開いた。
『あなただけは必ず私が守ります』
その後に力強く言われたその言葉を思い出して、胸が熱くなるのと同時に目頭があつくなって喉がツンとする。
だめ、泣いちゃダメなのに。
もう何日も会えてないことを思って、ユリウス様が恋しくなってしまった私はシーツをぎゅっと握り締める。
それはぎゅっとしたらしぼんでいって、人のぬくもり存在しない。
「ユリウス様……」
彼に会いたくて会いたくて、会いたくて、それでも会えない辛さで押しつぶされそうになった。
しばらくしてようやくうとうとしてきた頃、何やら周期的な音が聞こえてくる。
もぐりこんでいたシーツをめくって耳を澄ますと、その音はどうやら窓のほうから聞こえてきていた。
石のような軽く硬いものが何度も当たっているようなそんな音がして、私はひどく警戒しながら窓の死角にさっと潜り込んでゆっくりと顔を上げて外を見る。
「──っ!!! ユリウス様っ!!!」
そこには会いたくて仕方なかったユリウス様の姿があった。
私は慌てて窓を開けて、周りにバレないように口パクで言う。
(どうして?)
ユリウス様は私の言葉を読み取ったようで、窓から離れるようにを手振りで知らせる。
知らされた通りに少し窓から距離を取ると、鉤が窓枠に引っ掛けられた。
え、まさか上ってくる気なの?
私は驚いて再び窓から身を乗り出すと、ユリウス様は腕まくりをして壁に足をかけながら上ってくる。
お願いっ! 怪我はしないでっ!
私の願いは無事に神様に届いたようで、彼はそのままの勢いで窓から部屋に侵入してきた……や否や私に思いっきり抱き着く。
「ユリウス様っ?!」
「会いたかった……」
消え入るようなか細い声で少し震えていて、それでいて私への想いが伝わってくるそんな声。
そんな風に言われて私もさっきまでの会いたいと願っていた気持ちがぶわっと溢れて止まらなくて、彼を抱きしめ返す。
「会いたかった、会いたかったのっ! ユリウス様!」
「ああ」
言葉はなくても想いがひしひしと伝わて来て、嬉しくて嬉しくて涙が自然と溢れてきた。
ぐすんぐすんと鼻をすすっている様子を耳元で感じたのか、ユリウス様はそっと私を自身から離して、「もう」といいながら指先で涙を拭ってくれる。
そして私を落ち着かせると、近くにあったベッドに並んで座って話をする。
「落ち着いた?」
「はい、ごめんなさい」
「謝らないで、ほら、せっかく会えたんだから」
ユリウス様は私の手をずっと握ってくれて、それでうんうんと頷きながら目を見て話を聞いてくれる。
ああ、久しぶりだ、この安心するけどちょっとドキドキする感じ。
すると、彼は少し真剣な表情に変わって話を始める。
「無事だったかい?」
「はい、レオ……コーデリア国の王子が安心を保証してくれています」
「君をさらったのは誰かわかるかい?」
「レオ王子です」
「──っ! 王子自ら聖女に手を出すとは……」
私はイレナとの買い物の最中で襲われて気づいたらここにいたこと、それから聖女について調べようとしていることを話した。
ユリウス様もどうやらそのことに思い至っていたようで、すんなりと話を受け入れてくれた。
「これからはどうするか決めているの?」
「いいえ、でも書庫室を含めて何か聖女の手がかりがないか、しばらく滞在して調べてみます」
「あまり無理はしないで欲しい。お願いだよ?」
「わかっております」
私はユリウス様を心配させないように微笑むと、改めて聖女の秘密を探る決意を固めた。
「今は外交問題に発展する恐れもあるため迂闊に君を連れ出すことはできないけど、必ず助けに来るから」
「ユリウス様」
「それまで信じて待っていてほしい」
「はい……」
ユリウス様は私が寂しくないようにと朝方までいてくれて、私たちは帰ったらまたあのカフェに行こうとかそんな話をして過ごした──
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