第19話 レオの気持ち

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第19話 レオの気持ち

 朝日がカーテンの隙間から入ってきて、私は目が覚めた。  あれ……? さっきまでユリウス様と話していたはずなのに。  もしかして……。 「やっぱり夢よね……」  まさかこんな場所まで来れるはずがない。  会いたいって思いすぎて都合のいい夢を見ていただけね。  そんな風に思いながらベッドから立ち上がろうとすると、ふとサイドテーブルに見かけないものがあるのに気づく。 「真珠のペンダント?」  あ……これ、ユリウス様は以前お話くださっていたお母様の形見のペンダント。  いつも首にかけていらっしゃって……じゃあ……。 「そっか……」  夢じゃなくて本当に来てくださったのね。  私はそのペンダントを握り締めると、胸の前に持ってきて大事に大事に想いを込める。  もう一度会いたい。会わなきゃいけない。これを、私に預けてくださった大切なペンダントをお返しする。  そのために私は聖女の秘密を知って、現代に帰る手がかりを探して帰る!  すると、ディアナが私の部屋のドアをノックして尋ねる。 「ユリエ様、起きていらっしゃいますか?」 「あ、はい! 起きてます」  私はペンダントを自分の首にかけると、そのまま朝食の席へと向かった── ◇◆◇  私が朝食の席に着いた少し後で、レオが入室してくる。 「「「おはようございます、レオ様」」」  大勢のメイドや執事たち、そしてキッチンの奥の方にはシェフの人も頭を下げて挨拶している。  手を挙げて挨拶すると、そのまま自席に座った。 「……よく眠れたか?」 「え、ええ……」  私はユリウス様と会ったことを知られてはいけないと、なんでもない様子で返事をする。 「…………」 「…………」  いつも多くを話すほうではないけれど、配膳が終わるまでの時間がこんなに無言だったことはない。  いや、私は変に意識しすぎていて時間を長く感じているだけかもしれないけど……。 「ユリエ」 「は、はい!」  しまった、返事が上ずった……。  ちらっと彼の方に目を遣るけど、なんでもないような様子で水を飲んでいる。  よかった……バレてないらしい。 「後で俺の部屋に来い」 「へ?」 「聞こえなかったのか?」 「いや、はっきり聞こえました」 「じゃあ、問題ないな。来い」  私は思わずごくりと息を飲んだ──  レオの部屋は私の部屋の割と近くにあって、すぐに向かうことができる……が。 「身体が重い……」  あの真剣な声色で俺の部屋に来いと言われれば、さすがに警戒する。  ついに私の計画がバレた? 煮られる? 焼かれる? 蒸される……?  調理されるなら桜の木で燻されたスモークがいい……。  そこまで言って「サクラ」というワードで思考が停止した。  そうだ、クリシュト国に帰って、ユリウス様とまたあのサクラの木を見に行くんだ。  大丈夫、大丈夫、負けるな。私。  私はペンダントをぎゅっと握って、レオの部屋の扉をノックした。  すると、扉はすぐさま開き、そしてそのまま腕を強く引っ張られる。 「──っ!!!」  私はそのままぐるりと身体を反転させられ、気づくと何か柔らかいところに押し倒されていた。 「……レオ……さま?」  特徴的なアメジスト色の瞳が私を捕らえて離さない。  さらに肩まである長めの髪がさらりと流れるように私に向かって降りている。  先程の朝食の時とは違う、いや、今まで見たことない。こんなレオの顔。  怒っているような、何かにいらついているそんな表情。 「楽しかったか? 好いた男との逢瀬は」 「──っ!!」  ユリウス様とのこと、知ってたんだ。  私は何も言えなくなって唇を噛んで彼を見上げる。 「俺はお前の婚約者だ」 「なったつもりはないわ」  なんとか言い返すけど、私の身体は小刻みに震えている。  もうっ! 止まりなさいよ、私の身体!! 「…………」 「…………」  レオはじっと私を見つめて、そして私からさっと退くと、隣に座って頭を抱えた。 「レオ様?」  なんか様子が変で、今度はさっきまでの怖い雰囲気はなくなった。 「好きだ」 「え?」 「お前が好きだ、好きになった。最初はからかおうとしただけだった。だけど、お前と過ごす日々が楽しくなった。お前と話すことが嬉しくなった。お前に触れたくなった」 「どうして、私なの……」  レオは頭をぐしゃぐしゃっとかくと、顔を逸らして話を続けた。 「そんなもんわかるか! 好きなもんは好きになった、それだけだ」  なんて正直……! でも、なんて……。 「素直……」 「うるさい」 「ふふ」  けど、そうしてこちらを向くと今度は強い視線で私を見つめる。 「だが、昨日のお前は違った。あんなお前の顔、見たことがなかった」 「あ……」  そうか、昨日の事、レオ自身が見てたんだ……。 「嫉妬した。お前を今すぐ攫おうと思った。だが、お前のあいつを見る顔は……」 「顔は……?」 「なんて綺麗なんだろうって思った」 「──っ!!」  ああ、真っすぐな人なんだ。  レオは口は悪いけどやっぱり素直で優しい人だ。 「お前をさらった理由はもう一つある」 「え?」  レオは私に静かに語り始めた──
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