第20話 聖女の力(1)

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第20話 聖女の力(1)

「俺には妹がいる」  妹さん……? 今まで生活していた中で一度も見たことがない。 「ここにはいない」 「どこか別の場所に?」 「ああ、第一王宮にいる」 「第一王宮?」  王宮っていくつもあるの?  というよりここは第一王宮ではないってこと? 「ここは王宮ではないのですか?」 「王宮ではある。ただし、第二王宮と呼ばれる離れみたいなものだ。元々は王族が休暇の際に使っていたものだ」  レオはそこまで言うと、窓のほうへと向かって行き、そこから見えている大きな建物を指す。 「あそこが第一王宮だ」 「ずいぶん遠いのですね」 「国王も王妃もあそこにいる。妹も……。ただ、妹は病に伏せっている。いや、正式には呪いで病に伏せっている」  呪い……やっぱり魔法の国ってことはそういう黒魔術的なものもあるのかしら。  どうして呪いにかかったのか気になるけど、聞いていいの……? 「聞きたいって顔してるな」 「え? そんな顔していたでしょうか?」 「ああ」 「すみません……」 「いや、元々話す予定だったからな。聞いてくれるか?」 「もちろん」  レオはもう一度私の隣にやってきて腰を下ろすと、自身の指と指を絡める。 「幼い頃、俺と妹はコーデリア魔法祭に出かけた。もちろん、王宮の者に伝えずこっそり抜け出してな。それでお前と同じでクレープが妹は好きで」  ああ、だからクレープ屋さんのことも知ってたんだ。  そういえば、誰かと一緒に魔法祭に行ったって言ってたけど、妹さんのことだったのね。 「公園のベンチで食べて、妹も楽しそうに笑ってた。ただ、俺がその笑顔を奪ったんだ」 「……何があったの……?」 「帰り道で反王族派の人間に見つかって……それで、俺をかばって妹が、呪いにかかった」 「そんな……」  お兄ちゃんをかばって妹さんが呪いにかかって、レオもきっと辛かったよね。  私は当時を思い出しているのか、顔をひどく歪めた彼の背中をさすった。  珍しく、ありがとうとレオは呟くと続きを話し始める。 「それで王宮の人間が駆け付け、俺は国王と王妃から責められた。二人とも魔法の力が強かった妹を溺愛してたからな。当然だ。それでは、罰……いや、厄介払いというか、嫌われて憎まれて、『お前の顔なんか見たくない』って第二王宮に追いやられた」 「ひどい。だってレオ様のせいじゃない」 「いや、俺のせいだ。妹は眠り続けてる。魔術医師の先日の見解によると、あと半年の命しかないと」  半年……。  じゃあ、もう時間がない。何か呪いを解く方法とかないの?  そこでレオがじっと私を見つめてきた。  え……? また押し倒されるの、私。そ、それはちょっと……ご遠慮したい。  だけど、私に投げかけられた言葉は予想外なものだった。  いや、正式には私の脳内に少しだけよぎったけど、まさか、と思っていたこと── 「お前に、聖女の力で呪いを解いてもらいたい」 「……私?」 「ああ、あらゆる魔術師が呪いを解こうとしても解けなかった。それに反王族派の人間もまだ捕縛できていない。打開策を探していた時、お前が召喚された。だから、お前を攫らわせてもらった」 「それで私を。事情はわかったけど、私じゃ……」  そう、私は聖女のことはおろか、聖女の力とやらを発現することもできていない。  何もわかっていない、役立たずだ。 「お前が聖女の力を発現していないことは理解している。だから、無理強いはしない」 「俺も聖女について知っていることはあるが、おそらくこれが全てではない。だから……」  そう言うとレオはポケットから金色の鍵を掲げて私に見せて来る。 「それは?」 「この第二王宮の地下室の鍵だ」 「え、地下室なんてあったの?!」  そこまで言って思わず口に手を当てる。  しまった……これじゃあ、レオの目を盗んで聖女の資料を集めてたのがバレバレじゃない。  すると、レオはにやりと口角をあげると、鍵で遊びながら足を組む。 「ほお、やっぱり俺にこそこそ隠れてなんかやってたか。まあ、聖女についてとか、元の世界に戻る方法とやらを探していたんだろうけど……」 「ぎくっ!」  バレてる……!  どうしよう、もう今さら言い訳するのもあれだし、もう開き直るしか……。 「まあ、お前の動きはバレバレだからな。ディアナから聞いてたし」 「え?」 「ああ、ディアナは暗殺部隊出身だからな。そういうのに長けてる。こいつもディアナがようやく第一王宮から盗み出したってとこだ」  知らなかった……。あんな可愛らしい幼いふんわりした雰囲気のディアナが暗殺部隊の……?  わからない、人は見かけによらないわ。 「俺はお前が好きだ」 「──っ!」 「だが、その感情とは別にお前と契約を交わしたい」 「けいやく……」 「この鍵をお前にやる。自由に調べていい。ただし、聖女の力を発現して、いや聖女の力でなくともいい。妹の命を救ってほしい」  レオは静かに私に頭を下げた。  彼のその真摯な態度に心を打たれる。  確かに妹さんのことは私もできるなら救いたい。  でも、私にできる……?  本当に救える?  目の前にいるこの彼を、救えるだろうか。  私の脳内に街の人たちや第二王宮の人達からかばって助けてくれた彼の姿が思い出された。  現代にも戻りたいけど、まず彼を救わなければ、私はここを立ち去れない。  なら……。 「その契約、結ばせてもらうわ」  そう言って私は彼の手を取った──
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