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第21話 聖女の力(2)
私はレオから受け取った鍵を大切に握り締め、第二王宮の地下室へと向かう。
これまでは彼に見つからないようにこそこそと探索をしていたけれど、今度は違う。
──私は、彼と契約を結んだ。
彼の妹さんの呪いを解く方法を知り、彼女の命を救う。
それには聖女の力が不可欠に違いない。
地下室の前にたどり着いた私はゆっくりと鍵穴に差し込む。
甲高い音を鳴らし、扉は開く。
中はかなり埃っぽく、空気もよどんでいる気がする。
「こほっ……喉に来るわね……」
地下室独特のひんやりとした空気が肌にあたる。
部屋いっぱいに立っている本棚は年季を感じる深いブラウンの色合いで、王族紋章か何かが本棚の側面に刻まれている。
明らかに大事な書物を保管しているといった様子で、私は目の前の本棚に近づいて背表紙を見てみた。
「全然、わからない」
背表紙には読めない言語が書かれている。
一冊手に取ってみてそれをペラペラとめくってみたが、やはり背表紙と同じような読めない言語で書かれていた。
なんとかクリシュト国で使われている言葉はおおよそ読めるようになっていたが、これはその言語でもない。
コーデリア国も同じ言語だったから調べるときも、話すときも問題なくいけたんだけど……。
「とりあえず読めるのがないか、探してみるか」
私はおおよそ一人で読める量ではない本をなんとか少しでも早く見ようと急いで調べていく。
本を棚から取っては中身を見てみるが、やはりいつまで経っても読める文字にたどり着けない。
おそらく古典のようなものかもしれない。
上の階にあった書庫室の本とは明らかに古さが違う。
紙の質や本の閉じ方も、本の劣化の仕方もそうだ。
「とりあえず、読めるのから……」
古文書のようなものは王族であるレオなら読めるかもしれない。
私は本棚の背表紙をざっと眺めて読めそうな本を探していく。
ざっと一時間くらい本とにらめっこしたり、上の方にある本を取るために何度か踏み台に乗ったり……。
昼食もとらずに私は調べていく。
「──っ!!」
そんな時に突然読める文字で書かれた本に出会う。
ただ、それは私が想定したこの世界の文字ではなく、なんとも懐かしい文字の並びだった。
「日本語……!」
私はこの世界で見ることはなかった、自らの故郷の文字を見つけて声をあげる。
目をこすって何度も見てみるが、それは日本語以外の何物でもない。
「え、なんで……」
私は馴染みがあるその文字を読んでいく。
比較的新しいその本はどうやら誰かが書いた日記のようなもので、拙い文字というよりまるでそれを母国語として扱って書きなれているというような字面だった。
この世界の年号と照らし合わせて、どうやらちょうど100年ほど前のものらしい。
私は凄まじい勢いでそれを読んでいくと、ある文章に目がいく。
「聖女である私……」
ではこの日記は聖女の手によって書かれたもの。
聖女だから異世界の言語を書けた……?
いや、それよりも自然な考え方としては──
「聖女は私と同じ日本から来た?」
他に手がかりがないか私はページを何度もめくっていく。
この国の文化のこと、人のこと。
様々なことを初めて知ったような感じで書かれている。
意図的なのか、あまりマメではない性格なのか、行は揃って書かれているのに毎日書かれているわけではない。
それに天気の表記があったりなかったり、曜日があったりなかったり……。
その中である文章を見つける。
「呪いを解いた……?」
慌てて前後の文章を詳しく読んでいくと聖女自身が呪いを解いた様子が書かれている。
いや、それよりも何か引っかかる……。
「この文字……どこかで……」
そう思った矢先、私は視界がぐらりと揺らいだ。
「──っ!!」
突然、頭に強い衝撃を受けて私は立っていられずにその場に倒れ込む。
失う意識の端で誰か人影が傍にあるのに気づいた──
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