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第25話 懐かしさと甘いひととき
コーデリア国からクリシュト国に戻った私とユリウス様は、国王と話をしていた。
「では、やはりコーデリア国の侵攻は国王と王妃の暴走のもとおこなわれておったのだな」
「はい、レオ殿下がこちらにコンタクトを取ってくれたおかげで、ユリエも救うことができました」
「ああ、無事でなによりじゃ」
国王は私の方へと視線をやると、笑みを浮かべる。
私はありがとうございます、と告げながらお辞儀をした。
隣にいたユリウス様が「叔母様のことなのですが……」と話題を出すと、国王は一気に真剣な面持ちに変わった。
ユリウス様の叔母様──ようするに国王の妹君であらせられるリリア様は、コーデリア国との架橋となっていたが、数ヵ月前より病に伏せっていたのだという。
そのことを伝えようとリリア様の夫であるヒュートン公爵が使者を出したのだが、それが敵方への内通と疑われてしまった。
そうして、ヒュートン公爵とリリア様は、コーデリア王族の厳しい監視下におかれてしまい、それ以降連絡を取る手段がなかったのだそう。
「リリアの具合は?」
「幸いにも命には別条はないそうでございます。この件について、正式にコーデリア前国王と王妃、そして次期国王となるレオ殿下より謝罪の書状をもらっております」
国王は目を閉じながら背もたれに身体を預けると、しばし考え込む。
そうして数秒後に再びユリウス様と目を合わせる。
「わかった。謝罪を受けよう。しかし、嫁いだとはいえ可愛い妹のこと。二度目はないと伝えておいてほしい」
「かしこまりました」
こうして国王との謁見は終了して、私はユリウス様と王宮の廊下を歩いていた。
雑談を少ししては、数分の間があり、また雑談が始まる。
それは天気の話であったり、書庫室に新しい本が入った話だったり、王宮の庭が整備された話だったり。
最初こそ私がいなかった間のクリシュト国の様子などの話だったけど、次第に無理矢理話題を作っているようなそんな感じ。
何かもしかして言いたいことがあるのかしら?
そんな風に私は思って、もう少しで私の部屋に着く、というところで声をかけてみる。
「ユリウス様、もしかして何か言いたいことがありますか?」
「え……!?」
我ながらなんとなく直球すぎたな、と反省したが、彼の反応を見る限り当たっていたらしい。
ユリウス様は窓の外を少し見ながら私から視線を逸らすと、目を何度かパチパチしてがばっと私の両手を取り上げた。
「え……」
「私と、街に出かけないか?」
顔を少し赤らめながら、ユリウス様は私にそう告げる。
もしかして、これは、デートのお誘いというやつでは……?
私は久々にユリウス様と過ごせることにとても嬉しくなって満面の笑みで返事をした。
「いらっしゃい、坊ちゃん」
「だから、坊ちゃんは……」
「ふふ、可愛い」
「ユリエ!」
もう顔なじみになってしまったカフェの店主と目を合わせて笑いあう。
いつまでも「坊ちゃん」と呼ばれることに、ユリウス様だけものすごく居心地が悪そうにしていた。
先日も飲んだ紅茶を飲みながら、テラスでゆっくりと過ごす。
「また君を連れて来られてよかった」
「はい、私もユリウス様と一緒にまた来ることができて嬉しいです」
ちょうど昼食時だったため、サンドウィッチを頼んだ私はそれをほおばる。
新鮮な野菜がたくさん入っていて、心地よい食感に口が包まれた。
近くの壁にあった看板には、日替わりのおすすめメニューが書かれており、このサンドウィッチも今日のおすすめ。
野菜もどうやら近くの農場でとれたものらしい。
「美味しい?」
「はい! ユリウス様も食べますか?」
そういって私は持っていたサンドウィッチを彼の口元に持っていく。
いわゆるあ~んの状態になっていることに気づいた。
少しずつ羞恥心が心を占拠してきたため、慌てて私はその手を引っ込めようとしたが、それは叶わない。
ユリウス様が私の手を掴んで、サンドウィッチを食べたからだ。
「ここのはやっぱり美味しいな」
「その、あの、ごめんなさい。急にはしたいない真似をして」
「そんなことないよ。私は嬉しかった。はしたなくもない」
そんな風に言われるとまたしたくなってしまう。
でも、その場合恥ずかしさとも闘わないといけないから、もう少し修行が必要かもしれない……。
カフェの後で仕立て屋に寄って、頼んでいた新しいドレスを受け取って王宮に戻る。
すると、急いだ様子で私とユリウス様のもとにアルベルト様が駆け寄って来た。
「どうした、アルベルト」
「レオ様から伝言を頂戴しました」
アルベルト様はしばらくコーデリア国とのつなぎ役としていたけど、何かあったらしい。
少し小声で、それでも早口で私とユリウス様を交互に見る。
「レオ殿下が?」
「はい、ユリエ様が元の世界に戻れるかもしれない方法が見つかったと」
「「──っ!!」」
私が元の世界に戻れる……?
思わず横にいたユリウス様と目を合わせた──
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