第2話 私の記憶

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 ダイニングに到着してディナーの席に座ると、テーブルの奥には王妃様がいて私の隣にエリク様がいる。  私はいつものように前菜のテリーヌにゆっくりとナイフを入れると、この一年で培ったテーブルマナーを使って上品に食べ始めた。 「今日は皆揃ってよかったわ」 「ああ、母上。こうして三人揃うのも久々だからね」 「それはあなたが公務公務と忙しいからでしょう?」 「実際に忙しいのだから仕方ありませんよ。王は床に伏せられていますし」 (そう、王は床に伏せっているということはずっと言われ続けていた。しかし、私は一度もその姿を拝見したことがない。床に伏せっている理由も知らない)  メイドが私の飲み干したグラスに水を注いで、さっと後ろに下がる。 (それに私はこの”二人”のことを最も怪しんでいる)  私はスープをそっと手前からすくうと、そのまま口元へと運んで飲み込んだ。 (この二人を怪しむ理由は最も私に近い存在だから。彼らが犯人だとしたら、現代から来た私と普通に接しているのも説明がつくし、彼らが犯人でない場合18年間の婚約生活の説明がつかない。ただ、私と同じように魔術師に記憶を改ざんされている被害者の可能性もまだ否定できない) 「そういえば、リーディアちゃん。エリクは優しくしてるかしら?」 「ええ、とても優しくしていただいております。先ほどもオルゴールという素敵なものをいただきまして」 「まあっ! あれいいわよね! わたくしもエリクに見せていただいたときはなんて美しい音色かしらと感心したわ」 「とても上品で王妃様の好みに合いそうでしたわ」 「エリク、今度わたくしにもいただけるかしら?」 「今度手に入ったらお渡ししますよ」 「待っているわ」  私はそっとメインのお肉にナイフを入れると、口に運ぶ。  なんて美味しいんだろうかと現代の生活を思い出したからこそ肉の質の違いがわかってしまうこの悲しさ……。
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